中小企業診断士の1次試験合格率は概ね 20〜30%台、2次試験は 18〜20%前後、両方を一発で抜けるストレート合格率は 概ね4〜7% で推移しています。ただし、この数字だけを眺めても受験戦略は組み立てられません。本記事では令和5・6・7年度の公式データを整理しつつ、見落とされがちな「科目合格制度のからくり」と数字の正しい読み方を、現役診断士の視点で解説します。
中小企業診断士の合格率はどう決まるか
中小企業診断士試験は1次試験と2次試験の2段階方式です。それぞれ独立した合格率が公表され、合格基準も別々に設定されています。
1次試験の合格基準
1次試験は7科目(経済学、財務・会計、企業経営理論、運営管理、経営法務、経営情報システム、中小企業経営・政策)の合計700点満点で行われます。合格基準は以下の2つを同時に満たすことです。
- 総合得点 60%以上(420点以上)
- 40点未満の科目が1つもないこと
つまり「平均6割」ではなく「平均6割+足切り回避」の二重条件です。1科目でも40点未満があると、他科目で満点近くを取っても不合格になります。
2次試験の合格基準
2次試験(筆記)は4事例(組織・人事、マーケティング、生産、財務)の合計400点満点で、合格基準は次のとおりです。
- 総合得点 60%以上(240点以上)
- 40点未満の科目が1つもないこと
令和8年度試験から口述試験は廃止され、筆記試験の合格をもって2次試験合格となります。「合格率」と呼ばれるのはこの筆記試験の合否ベースの数値です。
「合格率」の母数に注意
公表される合格率は「申込者」ではなく「受験者」を母数として計算されています。申込んでも当日欠席した人は分母から除かれるため、申込ベースで見ると体感の難易度はもう少し下がります。本記事の数字も J-SMECA(一般社団法人 中小企業診断協会)公表の受験者ベースです。
1次試験の合格率の推移(令和5〜7年度)
直近3年の公式データを整理すると以下のようになります。
| 年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|
| 令和5年度(2023) | 18,621名 | 5,521名 | 29.6% |
| 令和6年度(2024) | 18,209名 | 5,007名 | 27.5% |
| 令和7年度(2025) | 18,360名 | 4,344名 | 23.7% |
令和7年度の合格率が下がった背景
令和7年度の23.7%は、ここ5年で最も低い水準でした。受験者数自体はほぼ横ばいですので、合格者数の減少がそのまま合格率に反映された格好です。一般的に診断士試験は年度ごとの難易度のブレが大きい試験で、特定科目の難化(経営法務や経営情報システムが目立ちやすい)が全体合格率を押し下げる傾向があります。
「合格率○%だから難しい/簡単」と短絡しない
ある年の合格率が高い・低いという事実は、翌年の合格率を予測する根拠にはなりません。診断協会は合格率の絶対水準を公表していませんが、年度ごとに大きく揺れる構造は変わっていません。直近の数字に一喜一憂するより、3年平均でだいたい25%前後という長期トレンドで理解しておくほうが実用的です。
1次試験の難易度を支える要素
- 7科目という出題範囲の広さ
- 60分〜90分の制限時間内で40〜45問を解く処理速度
- 経済学・財務など計算系と、経営法務・中小企業政策など暗記系の幅広さ
- 年度ごとの難易度調整による得点のブレ
これらが組み合わさり、結果として「3〜4人に1人」というレンジで推移しています。
2次試験の合格率と最終到達率
2次試験はさらに難関で、合格率は概ね 18〜20% で安定しています。
| 年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|
| 令和5年度(2023) | 8,241名 | 1,555名 | 18.9% |
| 令和6年度(2024) | 8,442名 | 1,516名 | 18.7% |
母集団が「1次通過者」であることの重み
2次試験の受験者の大多数は1次試験を勝ち抜いた実力者です。そのなかで5人に4人が不合格になるため、体感の難しさは数字以上です。記述式かつ模範解答が非公表という独特の試験設計が、この合格率の安定性を生んでいます。
ストレート合格率の目安
1次・2次を同年に通過する「ストレート合格率」は、業界では概ね 4〜7% とされています(複数年度の1次合格率 × 2次合格率の積から推計される業界目安)。多くの受験生は1次に複数年をかけ、2次でも複数回挑戦するのが現実的なペースです。
最終合格までを俯瞰した数字感
おおまかなイメージとして、受験を本気で始めた100名のうち、
- 1次試験に到達して受かるのが 25〜30名
- そのうち同年の2次まで通過するのが 5〜7名
という構造になります。「資格に挑戦した母数」で見るとさらに歩留まりは下がるため、最終合格までの道のりは長丁場であることを最初に腹落ちさせておくと、計画が立てやすくなります。
科目合格制度の仕組みとからくり
中小企業診断士1次試験には「科目合格制度」があり、合格率を読むうえで欠かせない論点です。
科目合格の基本ルール
- 1次試験の各科目で 60点以上 を獲得すると「科目合格」として記録される
- 科目合格は 翌年度・翌々年度 までの2年間有効
- 有効期間中は、申請すれば該当科目の 受験免除 を選べる
たとえば令和8年度に企業経営理論で65点を取って科目合格すると、令和9年度・令和10年度の試験で同科目を免除申請できます。
「科目合格率」と「最終合格率」は別物
公表される統計には、科目別の「科目合格率」も含まれます。これは その年度に当該科目を受験して60点以上を取った人の割合 であり、1次試験全体の合格率(420点以上+足切り回避)とは別物です。科目合格率は科目によって10〜30%台でばらつき、年度差も大きいため、単独で「この科目が簡単/難しい」と判断する材料にはしにくい指標です。
免除を使うと不利になる「からくり」
ここが受験生がもっとも誤解しやすいポイントです。科目免除を申請すると、その科目は 得点も母数も両方とも消える 扱いになります。たとえば3科目を免除すると、残り4科目(合計400点満点)で 240点以上の60%基準 を満たさなければなりません。
つまり、
- 苦手科目を残して得意科目を免除すると、得意科目で稼ぐ余地を自ら捨てることになる
- 残った科目で大コケすると、リカバリーの効く科目数が減っているため不合格リスクが上がる
という構造があります。「免除=ラク」ではなく、残った科目で平均6割を取り切る覚悟 とセットで使う制度だと理解しておくと判断を誤りません。
戦略的な使い方の原則
現役診断士の視点で見ると、科目免除の判断は次の優先順位で考えるのが現実的です。
- 苦手で再挑戦しても上振れしにくい科目は免除する(足切りリスクを下げる)
- 得意科目はあえて残し、加点源として活用する
- 暗記科目(経営法務、中小企業政策)は1年で覚え直す負担を考慮する
科目合格制度は「2〜3年計画で1次を抜けるためのセーフティネット」と捉え、得点シミュレーションをしてから使うのが安全です。
数字の正しい読み方:合格率を戦略に変える
合格率の数字を「事実認識」から「戦略立案」に変換するためのチェックポイントを整理します。
単年度ではなく3年トレンドで見る
診断士試験は年度ごとの難易度差が大きいため、1年だけの数字で判断すると振れ幅に引きずられます。直近3年の平均、できれば5年平均で「平常値」を把握しておきましょう。
「合格率が下がった=自分には不利」とは限らない
合格率が下がった年は、出題が難化して全体平均が押し下げられただけのケースが多く、相対評価としては受験生全員に同じ条件です。むしろ難化年は「足切り回避」と「得意科目で稼ぐ」戦略が効きやすくなります。
自分の得点シミュレーションを優先する
「合格率が25%だから……」と全体感を眺めるよりも、自分の現時点の得点見込みを科目別に積み上げ、420点を超えるかどうか を計算するほうが本番への準備になります。市販の過去問・予備校の模試・無料の学習プラットフォームなど、得点を可視化できる手段を早めに使いましょう。
2次試験は「合格率」より「相対評価」を意識
2次試験の合格率がほぼ一定(18〜20%)であることは、事実上の相対評価試験 であることを示唆します。事例の難易度がどう変わっても、上位2割に入れば合格圏内です。多くの受験生がするミス(与件文の見落とし、設問要求の取り違え)を避けるだけでも、相対順位は上がります。
「学習時間 × 効率」を合格率にぶつける
業界で広く言われる勉強時間の目安は 800〜1,000時間 です。合格率を下げる主要因の一つは「学習時間が足りないまま受験する」ケースで、これは合格率の数字には現れません。自分の確保可能な学習時間を逆算し、足りなければ計画を後ろ倒しにすることも合理的な選択です。勉強時間の配分については、関連記事の中小企業診断士の勉強時間の目安も参考にしてください。
合格率を上げるために実務上意識したいこと
数字の読み方を理解したうえで、合格率を「自分の側」で改善するための実務的な工夫を挙げます。
1次:足切り回避を最優先する
総合60%を狙う前に、まず 全科目で40点を割らない ことを基準にします。経営法務や経営情報システムは年度によって難化しやすく、足切りリスクが上がります。直近の傾向や対策については【経営法務】優先して覚えるべき条文と暗記のコツもあわせて活用できます。
1次:科目間の「つながり」を活かす
財務・会計は1次と2次(事例Ⅳ)で直結し、企業経営理論は2次の事例Ⅰ〜Ⅲで使う知識ベースになります。2次にも効く科目に厚めに時間を割く ことで、結果としてストレート合格率を引き上げやすくなります。
2次:型を作り、再現性を高める
2次試験は模範解答が非公表で、採点ロジックも開示されません。だからこそ、
- 与件文の読み取り順序
- 設問要求への対応プロセス
- 解答骨子の組み立て方
を「型」として固め、本番でも再現できる状態を作っておくことが重要です。
学習環境を整える
長丁場の試験では、学習を継続できる環境設計 が合否を分けます。スマホで完結する映像授業、AIによる答案フィードバック、進捗の可視化など、デジタルツールを活用することで、限られた時間を最大限活かせます。
よくある質問
Q. 中小企業診断士の合格率は年々下がっているのですか?
直近3年(令和5〜7年度)の1次試験合格率は29.6%→27.5%→23.7%と低下傾向にありますが、長期トレンドで見るとこの試験は年度差が大きく、再び30%台に戻る年もあります。単年度の数字だけで「難化が続く」と判断するのは早計です。
Q. 科目合格を狙う2〜3年計画と1年ストレートはどちらが現実的ですか?
確保できる学習時間によります。週20時間以上を1年間確保できる方は1年ストレートも視野に入りますが、社会人で平均週10〜15時間が現実的な場合は、2年計画で科目合格を活用するほうが安定します。働きながらの計画については働きながら中小企業診断士に合格する時間管理術を参照してください。
Q. 科目合格制度で免除した科目は、もう一度受け直してもいいですか?
はい、免除は申請制なので、受け直すことも可能です。得意科目で高得点を取って合計420点を稼ぎたい場合は、あえて免除を使わず受け直す戦略も有効です。ただし、当日のコンディションや問題難易度のリスクも織り込んで判断してください。
Q. 2次試験の合格率がほぼ一定なのはなぜですか?
2次試験は記述式で採点基準が非公表のため、合格者数の調整が行いやすい構造になっています。結果として、上位2割前後で合格ラインが引かれる事実上の相対評価試験となり、合格率が安定しているとみられます。
Q. ストレート合格を狙うのは無謀ですか?
無謀ではありませんが、確保できる学習時間と1次・2次の対策バランスを最初から設計する必要があります。1次対策に偏ると2次の準備期間が短くなり、合格率が下がる構造です。早い段階から2次を意識した学習が鍵になります。
Q. 合格率の低い年に挑戦するのは不利ですか?
合格率は受験者全員にとっての相対的な指標なので、自分だけが不利になるわけではありません。むしろ、難化年は「足切り回避」と「相対順位」を意識するだけで他の受験生との差がつきやすくなります。
まとめ
中小企業診断士の合格率と科目合格制度のポイントを整理します。
- 1次試験の合格率は令和5〜7年度で 29.6%→27.5%→23.7% と推移、長期的には25%前後
- 2次試験の合格率は 18〜20%前後 で安定、事実上の相対評価試験
- ストレート合格率は 概ね4〜7%、多くの受験生は複数年かけて合格する
- 科目合格制度は 使い方を誤ると不利になる 設計、得意科目を残して苦手を切るのが原則
- 数字は 3年トレンド で見て、自分の得点シミュレーションに落とし込むことが戦略の核
合格率を「眺める数字」から「自分の戦略を組み立てる材料」に変えるには、得点シミュレーションを早めに始めることが近道です。診断士エアポートでは、全7科目の映像授業と過去問演習、AIによる答案フィードバックを月額3,980円で提供しています。受験を本格的に検討される方はトップページから詳細をご覧ください。
出典・参考
- 一般社団法人 中小企業診断協会/日本中小企業診断士協会連合会 公式統計(令和5・6・7年度試験結果データ)
- 中小企業診断士試験 実施要領(令和8年度)

