中小企業診断士の養成課程は、1次試験の合格者が受講し、修了すると2次試験と実務補習を経ずに登録できる課程です。中小企業大学校東京校では約6か月の全日制で、受講料は2,343,000円(税込)です。
「2次試験が免除される」と聞くと楽な近道に見えますが、実際は数百時間の演習と5社以上の企業診断実習をこなし、審査に合格して初めて修了できます。この記事では、制度の仕組み、実施機関、費用、2次試験ルートとの違いを、法令と公表資料にもとづいて整理します。
中小企業診断士の養成課程とは
中小企業診断士になるルートは、大きく分けて2つあります。
- 試験ルート:1次試験 → 2次試験(筆記)→ 実務補習または実務従事15日以上 → 登録
- 養成課程ルート:1次試験 → 養成課程または登録養成課程を修了 → 登録
どちらも1次試験の合格が出発点です。養成課程ルートは、2次試験と実務補習の代わりに、長期間の演習と実習で診断の実務能力を身につける仕組みです。
「養成課程」と「登録養成課程」の違い
養成課程には2つの呼び方があります。
- 養成課程:独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する中小企業大学校で行う課程
- 登録養成課程:経済産業大臣の登録を受けた大学院や民間機関(登録養成機関)が行う、養成課程と同等の内容の課程
どちらを修了しても、登録の要件としての効果は同じです。違うのは、期間・時間帯・費用・選考方法など、機関ごとの運営の部分です。
修了しないと意味がない
養成課程は「受講すれば資格が取れる」ものではありません。機構(登録養成課程では各機関)が審査を行い、審査に合格した受講者だけが修了者となります。中小企業大学校東京校の場合、出席時間が90%以上で、修得水準の審査に合格することが修了の条件です。実習の評価基準を満たせない場合は、期の途中でも退校になると明記されています。
2次試験が免除される仕組み|法令上の位置づけ
養成課程で2次試験が不要になるのは、試験の「免除」というより、法令が登録資格のもう一つの道として養成課程を定めているからです。
登録資格を定める規則
「中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則」では、登録を受けられる人を次のように分けています。
- 第1条:申請の日前3年以内に試験(1次・2次)に合格し、実務従事または実務補習が合計15日以上ある人
- 第2条第1項第1号:申請の日前3年以内に、養成課程または登録養成課程を修了した人
つまり、養成課程の修了者は第2条にもとづいて登録を申請します。試験合格者のように実務補習の15日を別に満たす必要はありません。
課程の中身も省令で決まっている
養成課程の内容は「中小企業支援事業の実施に関する基準を定める省令」第7条と別表で定められています。科目は「経営診断Ⅰ」と「経営診断Ⅱ」の2つで、それぞれに最低時間数や実習先の数が決まっています。
| 区分 | 経営診断Ⅰ | 経営診断Ⅱ |
|---|---|---|
| 身につける能力 | 診断士に必要な学識の応用能力 | 診断士に必要な実務能力 |
| 演習 | 246時間以上 | 84時間以上 |
| 実習 | 120時間以上 | 192時間以上 |
| 実習で診断する中小企業の数 | 2以上 | 3以上 |
| 1グループの受講者数 | 10人以下 | 8人以下 |
合計すると、演習330時間以上・実習312時間以上、診断先は5社以上です。登録養成課程も、この基準と同等の内容で実施することが登録の条件になっています。
養成課程を実施している機関(養成機関・登録養成機関)
中小企業庁は「養成機関、登録養成機関一覧」を公表しています。2024年11月版の一覧に掲載されている機関は次のとおりです。
- 養成機関(1機関):独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業大学校東京校
- 登録養成機関(14機関):法政大学、公益財団法人日本生産性本部、株式会社日本マンパワー、一般社団法人中部産業連盟、東洋大学、千葉学園(千葉商科大学)、兵庫県立大学、城西国際大学、一般社団法人福岡県中小企業診断士協会、札幌商工会議所、日本工業大学、大阪経済大学、関西学院大学、メイ・ウシヤマ学園(ハリウッド大学院大学)
機関の追加や募集停止はありうるため、検討するときは中小企業庁の最新の一覧と各機関の募集要項で確認してください。
大学院型と研修型がある
一覧を見ると、大学院(専門職大学院・研究科)が実施するものと、公益法人・民間企業・団体が実施するものが混在しています。たとえば法政大学は、専門職大学院の「中小企業診断士登録養成課程(MBA特別プログラム)」として案内しています。大学院型では修了時に修士の学位も視野に入る一方、入学試験や学費の体系は大学院の制度に従います。
機関ごとに確認したい項目
登録養成課程は、期間・授業の時間帯・学費・選考方法が機関によって大きく異なります。比較するときは、少なくとも次の点を募集要項で確認しましょう。
- 開講時期と修了までの期間
- 授業と実習の時間帯(平日日中か、それ以外か)
- 学費の総額と、実習に伴う交通費などの別途費用
- 選考方法(書類・小論文・面接・筆記など)と定員
- 1次試験の合格年度による応募可能な時期
中小企業大学校東京校の養成課程|期間・定員・選考
ここからは、中小機構の「養成課程」を実施している中小企業大学校東京校(東京都東大和市)について、第47期の募集要項をもとに見ていきます。
期間と授業時間
- 期間:おおむね6か月間の全日制
- 第47期の開講期間:2027年3月22日〜2027年9月27日
- 定員:春開講期80名、秋開講期40名
- 授業時間:演習は9時40分〜16時40分、実習は9時40分〜17時40分
- 休日:土日祝。ただし一部の休日は研修に充てられる
正規の時間外にも事前課題があります。東京校のFAQでは「全日制のため、基本的には在職しながらの受講は困難」と説明されています。会社員の方は、休職や派遣制度の利用など、半年間を研修に充てる手段が前提になります。
応募条件
第47期の応募条件は、年齢を問わず次のとおりです(主なもの)。
- 2025年度(令和7年度)または2026年度(令和8年度)の1次試験合格者
- 心身ともに健全で、約6か月の研修を受講できる
- 開講日時点で、通算おおむね2年以上の実務経験(業種・職種・雇用形態は問わない)
- Word・Excel・PowerPointの基本操作ができ、条件を満たすノートパソコンを持参できる
- 修了後に中小企業の経営支援や地域経済の発展に知識を役立てたい人
1次試験の科目合格だけでは応募できません。7科目すべてに合格した「試験合格者」であることが条件です。
選考の流れ(第47期)
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年8月24日〜9月25日 | 応募書類の受付(受付手数料5,000円) |
| 2026年10月22日 | 書面審査の結果発表 |
| 2026年11月7日 | 東京校で面接審査 |
| 2026年11月19日 | 最終結果の発表 |
| 2027年1月26日 | 受講料の納入期限 |
| 2027年3月22日 | 開講 |
書面審査では、指定テーマにもとづく800字以内の小論文などを提出します。応募書類はパソコン入力が条件です。第47期の受付は終了しているため、これから検討する方は次の期の募集要項を待つことになります。
養成課程の費用|受講料と追加でかかるお金
「中小企業診断士 養成課程 費用」で調べる方が最も気にするのが金額です。中小企業大学校東京校の第47期募集要項に記載された費用を整理します。
受講料(第47期)
| 項目 | 金額(税込) | 備考 |
|---|---|---|
| 受講料(一般) | 2,343,000円 | 原則全額前払い。1,171,500円ずつの分割納付にも対応 |
| 受講料(公的機関等からの派遣) | 1,205,000円 | 国・地方公共団体、中小企業支援センター、商工会議所などが支援業務に従事させる前提で派遣する場合 |
| 受付手数料 | 5,000円 | 応募時に振込。返金なし |
| 実習に伴う経費 | 20〜25万円程度の場合あり | 資料収集費・交通費・宿泊費など。約50日程度の実習を予定 |
| 東大和寮の宿泊料(任意) | 1泊3,600円 | 入寮は任意 |
個人で応募する場合、受講料と実習経費だけで250万円を超える可能性があります。加えて、全日制のため受講期間中の収入をどう確保するかも考えておく必要があります。
教育訓練給付金の対象
東京校の養成課程は、第45期から厚生労働大臣指定の一般教育訓練給付制度の対象講座になっています。条件を満たす方は、受講料の最大20%(上限10万円)が給付されます。対象は、雇用保険の被保険者期間が原則3年以上(初回利用の場合は1年以上)ある方です。
また、「教育訓練費用」と「教育訓練期間中の生活費」を融資する「リ・スキリング等教育訓練支援融資」の対象講座でもあります。手続きの詳細は、住所を管轄するハローワークに確認してください。
登録養成課程の学費は機関ごとに異なり、大学院型では入学金・授業料など大学院の学費体系になります。各機関の最新の募集要項で確認してください。
カリキュラムの中身|演習330時間・実習5社
東京校のカリキュラムは、省令の「経営診断Ⅰ」「経営診断Ⅱ」に対応しています。
経営診断1(前期)
- 演習(246時間以上):助言能力、経営機能別マネジメント、経営戦略など
- 実習(120時間以上):流通業の経営診断実習、製造業の経営診断実習
経営診断2(後期)
- 演習(84時間以上):創業・ベンチャー、経営革新、総合戦略など
- 実習(192時間以上):戦略策定実習1・2、経営総合ソリューション実習
演習と実習の進め方
演習は講義ではなく、ケース教材を個人で分析し、グループ討議と発表を繰り返す形式です。実習では8名程度の班で実在の中小企業を訪問してヒアリングや調査を行い、診断報告書を作成して報告会で提案します。
現役診断士から見ると、5回の実習で業種の違う企業を「調査→分析→提言→報告」まで繰り返し経験できる点が、このルートの大きな特徴です。試験ルートでは、この実践部分を実務補習の短い期間で経験することになります。
2次試験ルートとの比較
養成課程ルートと試験ルートを、費用・期間・見通しの観点で比べます。
| 観点 | 試験ルート(2次試験+実務補習) | 養成課程ルート(中小企業大学校東京校) |
|---|---|---|
| 1次試験の合格 | 必要 | 必要(科目合格のみは不可) |
| 公的な手数料・受講料 | 2次受験料15,100円+実務補習15日間コース240,000円 | 受講料2,343,000円+実習経費・受付手数料 |
| 学習の進め方 | 仕事を続けながら独学・講座で対策できる | 約6か月の全日制。在職しながらの受講は困難 |
| 合格・修了の見通し | 2次試験の合格率は令和5年度18.9%、令和6年度18.7% | 選考に通れば受講でき、審査に合格すれば修了 |
| 登録までの目安 | 2次合格(翌年1月発表)→実務補習(2〜3月)→登録申請 | 修了後すぐに登録申請できる |
| 実務経験の量 | 実務補習で2社程度を診断 | 演習330時間以上と5社以上の実習 |
2次試験の受験料は令和8年度からの金額、実務補習の受講料は令和8年7月実施分以降の協会の案内による金額です。2次試験の対策費用(講座・教材)は人によって幅があるため含めていません。
費用の差は大きいが、比べる軸は金額だけではない
支出だけを見れば、試験ルートのほうがはるかに少なく済みます。一方で、2次試験は合格率が2割弱で、複数年かかる受験生も珍しくありません。養成課程は高額ですが、選考を通過した後は、出席と審査の基準を満たすことで修了に到達できる設計です。
ただし「お金を払えば取れる」と考えるのは誤解です。東京校は、修得水準に達しない場合の退校処分を明記しています。2次試験の不確実性を「費用と半年間の時間」に置き換えるルートだと捉えるのが実態に近いでしょう。
仕事との両立
試験ルートは、働きながら学習を続けられるのが大きな利点です。東京校の養成課程は全日制で、働きながらの受講は難しいとされています。登録養成課程の時間帯は機関ごとに異なるため、募集要項で確認しましょう。
養成課程に向いている人・向かない人
向いている人
- 公的機関・支援機関から派遣される人:派遣の受講料区分(1,205,000円)があり、支援業務に就く前提で学べる
- 独立や転身を決めていて、半年間を投資できる人:短期間で診断の実務経験と同期のネットワークを得られる
- 2次試験に何年もかけたくない人:費用と時間を投じて、登録までの道筋をはっきりさせたい人
- 大学院で学位も取りたい人:大学院型の登録養成課程が選択肢になる
向かない人
- 今の仕事を半年間離れられない人:東京校の全日制は難しい
- 費用をできるだけ抑えたい人:試験ルートとの差は数百万円規模になりうる
- 資格取得だけが目的の人:東京校は「資格取得自体が目的の方はご遠慮ください」と明記している
迷う場合は、まず2次試験に挑戦し、結果を見てから養成課程を検討する方法もあります。ただし、次に説明する応募期限に注意が必要です。
受講資格の期限に注意|1次合格の翌年度まで
養成課程の受講資格には期限があります。基準省令第7条第3項は、当該年度またはその前年度に実施された1次試験の合格者に限り受講できると定めています。登録養成課程にもこの規定が準用されます。
東京校で応募できる期
東京校の案内では、1次試験の合格年度と応募可能な期が次のように示されています。
| 1次試験の合格年度 | 応募できる期 |
|---|---|
| 2025年度(令和7年度) | 第45期(2026年3月開講)・第46期(2026年9月開講)・第47期(2027年3月開講) |
| 2026年度(令和8年度) | 第47期(2027年3月開講)・第48期(2027年9月開講予定)・第49期(2028年3月開講予定) |
第48期以降は予定で、変更の可能性があります。
2次試験との併願を考えるときのポイント
令和7年度に1次試験に合格した方は、東京校では第47期が最後の機会で、その受付はすでに終了しています。令和8年度の1次試験合格者は、第48期・第49期にも応募できます。各期の応募時期は、公開される募集要項で確認してください。
東京校の募集要項のQ&Aでは、2次試験と併願して2次試験に合格した場合も、未登録であれば養成課程を受講できるとされています。どちらの道を取るかは、1次試験に合格した時点で考えておくと選択肢が広がります。
修了後の登録手続き
養成課程を修了したら、経済産業大臣(窓口は中小企業庁)に登録を申請します。
申請の期限
登録の申請は、課程を修了した日から3年以内に行う必要があります(規則第2条第1項第1号の「申請の日前3年以内に修了」)。期限を過ぎると、修了の効力で登録することはできなくなります。
必要書類
養成課程ルートでは、登録申請書と、養成課程(または登録養成課程)の修了証明書を提出します。2次試験の合格証書や、実務補習・実務従事の証明書は不要です。2026年6月からはマイナポータルを使ったオンライン申請も始まっています。
なお、登録の申請に手数料や登録免許税はかかりません。申請書類の詳細は中小企業診断士の登録手続きの記事で解説しています。登録後の更新要件(理論政策更新研修5回以上・実務の従事30日以上)は、試験ルートで登録した人と同じです。
よくある質問
Q. 養成課程を修了すると2次試験に合格したことになりますか?
2次試験の合格者になるわけではありません。養成課程の修了は、登録資格を定めた規則の第2条にもとづく別のルートです。東京校の案内でも「第2次試験の合格」および「実務補習」に代わるものとして登録資格が付与されると説明されています。
Q. 働きながら養成課程に通えますか?
中小企業大学校東京校は約6か月の全日制で、FAQでも在職しながらの受講は困難とされています。登録養成課程の時間帯は機関ごとに異なるため、各機関の募集要項で確認してください。
Q. 養成課程の費用はいくらですか?
東京校の第47期は受講料2,343,000円(税込)で、公的機関などからの派遣の場合は1,205,000円です。このほか、実習に伴う交通費・宿泊費などとして20〜25万円程度かかる場合があります。登録養成課程の学費は機関ごとに異なります。
Q. 1次試験の科目合格だけで応募できますか?
できません。東京校の募集要項では、科目合格では応募要件にならず、1次試験の「試験合格者」が対象と明記されています。7科目すべてに合格している必要があります。
Q. 1次試験に合格してから何年以内に受講すればよいですか?
省令では、受講する年度またはその前年度の1次試験合格者に限り受講できるとされています。つまり、1次試験に合格した年度と翌年度に開講する課程が対象です。東京校では、2026年度の1次試験合格者は第47期から第49期に応募できます。
Q. 養成課程の選考はどのように行われますか?
東京校の第47期では、800字以内の小論文や履歴書・身上書などによる書面審査のあと、東京校での面接審査を経て受講者が決まりました。応募時には受付手数料5,000円が必要です。登録養成課程の選考方法は機関ごとに異なります。
Q. 養成課程と2次試験はどちらを選ぶべきですか?
費用を抑えて働きながら目指すなら試験ルート、半年間と数百万円を投じて実務経験とネットワークを得たいなら養成課程ルートが向いています。派遣制度を使える公的機関の職員などは、養成課程の利点が大きくなります。
まとめ
- 養成課程は、1次試験合格者が受講し、修了すると2次試験と実務補習なしで登録できる課程。中小企業大学校の「養成課程」と、大学院・民間機関の「登録養成課程」がある
- 省令で演習330時間以上・実習312時間以上、診断先5社以上と定められ、審査に合格して初めて修了となる
- 中小企業大学校東京校は約6か月の全日制で、第47期の受講料は2,343,000円(公的機関等の派遣は1,205,000円)。実習経費も別にかかる
- 受講できるのは1次試験に合格した年度と翌年度に開講する課程。2次試験と迷う場合は早めに検討する
- 修了後は3年以内に登録を申請する。必要書類は申請書と修了証明書で、手数料はかからない
試験ルートの全体像は中小企業診断士になるには、試験ルートで登録に必要な実務補習の費用と日程は実務補習の記事で解説しています。2次試験を働きながら独学で目指す方法は2次試験の独学の記事もあわせてご覧ください。
診断士エアポートでは、全7科目の映像授業と過去問演習を月額3,980円で提供しています。1次試験の合格を目指す方はトップページをご覧ください。
出典・参考
- 中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則(平成12年通商産業省令第192号)第1条・第2条・第35条
- 中小企業支援事業の実施に関する基準を定める省令(昭和38年通商産業省令第123号)第7条・別表一・別表二
- 中小企業庁「養成機関、登録養成機関一覧」(2024年11月)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業大学校東京校「第47期中小企業診断士養成課程 募集要項」、同「中小企業診断士養成課程の概要」「カリキュラム」「よくある質問」
- 一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会 公式統計(2次試験合格率)
- 中小企業庁 令和8年度中小企業診断士試験の受験手数料改定のお知らせ(2026年2月5日)

