予算管理とは、企業の経営計画を金額で表した「予算」を立て、実績と比べて差異の原因を分析し、改善につなげる管理手法です。利益計画とは、目標利益を達成するために必要な売上高や費用の水準を決めるプロセスで、予算編成の出発点になります。どちらも、CVP分析(費用・販売量・利益の関係)を使って数字を組み立てるのが基本です。
- 予算管理は「予算編成(計画)」と「予算統制(実績との比較・是正)」の2つでできている
- 目標利益達成売上高 = (固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率
- 固定予算は操業度にかかわらず一定、変動予算は実際の操業度に合わせて予算額を調整する
- 部門責任者の業績は、その責任者が管理できる費用だけを差し引いた利益で評価する
予算管理・利益計画とは
予算管理は、PDCAサイクルのうち「P(計画)」と「C(チェック)」を数字で回す仕組みです。計画段階で売上・費用・利益の目標を決め(予算編成)、期中や期末に実績と比べてズレの原因を突き止め、手を打ちます(予算統制)。
利益計画は、その予算編成の前提になる「来期はいくら利益を出すか」「そのためには売上がいくら必要か」を決める作業です。目標利益から逆算して必要な売上高を出すため、損益分岐点分析と同じ公式の考え方を使います。損益分岐点の基本は 生産性分析・損益分岐点分析 で詳しく扱っているので、このページでは「計画を立てて、実績とのズレを管理する」側面を中心に整理します。
| 用語 | 中身 |
|---|---|
| 予算編成 | 次年度の売上・費用・利益の数値目標を設定する手続き |
| 予算統制 | 予算と実績を比較し、差異の原因を分析・是正する活動 |
| 利益計画 | CVP分析を使い、目標利益を達成する売上・費用の計画を立てる |
| 予算差異分析 | 予算と実績の差を原因別に分け、どの部門の責任かを明確にする |
予算がなぜ必要かというと、「何となく頑張る」状態から「どこで、いくら足りないか」がわかる状態にするためです。差異分析をしないまま予算を放置すると、予算は形だけのもの(形骸化)になります。タイムリーに差異を分析し、是正措置を取ることが予算管理の肝です。
予算管理の体系と仕組み
予算の体系
企業全体の予算(総合予算)は、部門ごとの予算を積み上げて作られます。最終的には、予算損益計算書(予算P/L)・予算貸借対照表(予算B/S)・予算キャッシュフロー計算書(予算C/F)の3つに集約されます。
| 予算の種類 | 主な中身 | 最終的な集約先 |
|---|---|---|
| 売上予算 | 製品別・地域別の販売量と販売価格 | 予算P/L |
| 製造予算 | 材料費・労務費・経費などの製造原価 | 予算P/L |
| 販売費予算・一般管理費予算 | 広告費、販売員の人件費、本社費など | 予算P/L |
| 資金予算 | 現金の収入・支出、資金の過不足と調達 | 予算C/F・予算B/S |
| 設備予算 | 設備投資の金額と時期 | 予算B/S・予算C/F |
売上予算が起点になり、売上に合わせて製造予算や販売費予算が決まる、という順番で組み立てるのが一般的です。
予算編成のアプローチ
| 方式 | 進め方 | 特徴 |
|---|---|---|
| トップダウン方式 | 経営層が主導して予算を決め、現場に下ろす | 経営戦略と一致させやすいが、現場の納得感が下がりやすい |
| ボトムアップ方式 | 現場の各部門が予算案を作り、積み上げる | 現場の実情を反映しやすいが、目標が甘くなりやすい |
| 折衷方式 | 経営層の方針を示したうえで、現場の案と調整する | 実務ではこの方式が多い |
| ゼロベース予算 | 前年実績にとらわれず、白紙から必要性を検討して編成する | 既得権化した支出を見直せる |
ゼロベース予算の反対は、前年実績に一定の増減を加えて決める方法です。「前年度の実績をベースに増減する」のはゼロベース予算ではない、という点が正誤問題のひっかけになります。
固定予算と変動予算
| 区分 | 予算額の決め方 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 固定予算 | 操業度(販売量・生産量)にかかわらず、期首に決めた一定額 | 全社の目標設定 |
| 変動予算(フレキシブルバジェット) | 実際の操業度に応じて予算額を調整する | 原価管理・業績評価 |
変動予算では、変動費を「変動費率 × 実際の操業度」で計算し直し、固定費はそのまま置きます。売上が予算より少なければ、変動費も少なくて当然です。固定予算のまま比べると「変動費が予算より少ない=有利」と見えても、実は効率が悪化していることがあります。原価管理には変動予算のほうが適しているのはこのためです。
予算差異分析の方法
| 差異 | 分け方 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 売上高差異 | 販売価格差異 + 販売数量差異 | 値引き・値上げの影響と、販売量の影響を分ける |
| 費用差異 | 予算差異 + 能率差異 + 操業度差異 | 支出のムダ、作業効率、設備の稼働状況を分ける |
売上高差異の分解は次の式で計算します。
- 販売価格差異 = (実際販売価格 − 予算販売価格)× 実際販売数量
- 販売数量差異 = (実際販売数量 − 予算販売数量)× 予算販売価格
実績が予算より利益を増やす方向の差異を「有利差異」、減らす方向の差異を「不利差異」と呼びます。分解した差異を責任部門別に割り当て、改善アクションにつなげます。
具体例で確認する
例1:目標利益達成売上高(利益計画)
G社の予算は、固定費350万円、限界利益率40%(変動費率60%)、目標営業利益130万円でした。
- 目標利益達成売上高 = (350 + 130)÷ 0.4 = 480 ÷ 0.4 = 1,200万円
来期は固定費が360万円に増える見込みで、目標営業利益を150万円にしたいとします。打ち手ごとに必要な売上高を比べると、次のとおりです。
| シナリオ | 固定費 | 限界利益率 | 必要売上高 |
|---|---|---|---|
| そのまま | 360万円 | 40% | (360 + 150)÷ 0.40 = 1,275万円 |
| 固定費を20万円削減 | 340万円 | 40% | (340 + 150)÷ 0.40 = 1,225万円 |
| 変動費率を55%に引下げ | 360万円 | 45% | (360 + 150)÷ 0.45 ≒ 1,133万円 |
このように、売上を伸ばす・固定費を削る・変動費率を下げる、のどれでどれだけ効くかをシミュレーションするのが利益計画でのCVP分析の使い方です。
目標が「営業利益率10%」のように比率で与えられた場合は、売上高をSとして「0.4S − 360 = 0.1S」を解きます。S = 360 ÷ (0.4 − 0.1)= 1,200万円 です。
例2:予算実績差異分析(固定予算と変動予算)
G社の当期の予算と実績は次のとおりでした。
| 項目 | 予算 | 実績 | 差異 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,200万円 | 1,100万円 | △100万円(不利) |
| 変動費 | 720万円 | 680万円 | +40万円(有利) |
| 限界利益 | 480万円 | 420万円 | △60万円(不利) |
| 固定費 | 350万円 | 360万円 | △10万円(不利) |
| 営業利益 | 130万円 | 60万円 | △70万円(不利) |
固定予算で比べると、売上高の未達が主因で営業利益が70万円下回り、変動費は40万円の有利差異に見えます。ここで変動予算の考え方を使い、実際の売上高1,100万円に予算の変動費率60%を当てはめ直します。
- 変動予算での変動費 = 1,100 × 0.6 = 660万円
- 実際の変動費は680万円なので、変動費の差異は 660 − 680 = △20万円(不利)
営業利益の差異△70万円は、次の3つに分けられます。
| 原因 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 売上高の減少による限界利益の減少 | (1,100 − 1,200)× 40% | △40万円 |
| 変動費率の悪化 | 660 − 680 | △20万円 |
| 固定費の増加 | 350 − 360 | △10万円 |
| 合計 | △70万円 |
固定予算の比較では「変動費は効率化できた」と読めますが、売上の減少を調整すると、実際の変動費率は約61.8%(680 ÷ 1,100)で予算の60%より悪化しています。売上の回復と固定費の見直しに加え、変動費の使い方も点検が必要だとわかります。
例3:売上高差異の分解
H社の売上予算は、販売価格500円 × 20,000個 = 1,000万円でした。実績は、販売価格480円 × 21,000個 = 1,008万円です。
- 販売価格差異 = (480 − 500)× 21,000個 = △42万円(不利)
- 販売数量差異 = (21,000 − 20,000)× 500 = +50万円(有利)
- 売上高差異 = △42万円 + 50万円 = +8万円(有利)
合計では予算を8万円上回っていますが、中身は「値引きで42万円失い、数量で50万円取り返した」状態です。値引きの判断が妥当だったかは営業部門の責任として検討する必要があり、合計だけ見ていては気づけません。
試験での問われ方
1次試験では、予算管理という名前のままの出題よりも、利益計画のCVP計算や、部門責任者の業績評価の問題として問われることが多い論点です。
パターン1:利益計画の資料から販売量・売上高を計算する
令和6年度 第12問 は、「当期の実績に基づいて次期の利益計画を策定している」という設定の2問構成です。設問1で損益分岐点売上高を求め、設問2 で「1個当たり営業利益150円」を達成する販売量を求めます。設問2は、1個当たり限界利益400円・固定費900万円から、400Q − 9,000,000 = 150Q を解いて Q = 36,000個 となります。目標利益が「総額」ではなく「1個当たり」で与えられる点がポイントです。
パターン2:部門責任者の業績評価(予算統制)
令和8年度 第13問 は、事業部ごとの売上高・変動費・管理可能個別固定費・管理不能個別固定費から、部門責任者の業績が最も優れている部門を選ぶ問題です。責任者の評価には、その責任者が動かせる費用だけを引いた 管理可能利益(売上高 − 変動費 − 管理可能個別固定費)を使います。管理不能個別固定費まで引くと順位が変わるように作られています。
間違えやすいポイント
予算編成の方式の取り違え
- 現場から積み上げるのは ボトムアップ方式。経営層が主導するのが トップダウン方式
- 前年実績を基準に増減するのは ゼロベース予算ではない。ゼロベースは白紙から編成する
- 「予算統制」は予算を作ることではなく、実績と比べて差異を分析し是正すること
固定予算と変動予算の逆
「操業度に関係なく一定額」は固定予算です。変動予算を説明する選択肢で、この説明が入れ替わっていたら誤りです。
固定予算で比べた「有利差異」が、本当に良い結果とは限りません。売上が予算に届かなければ変動費が減るのは当然なので、例2のように変動予算で比べ直すと不利差異になることがあります。
販売価格差異と販売数量差異の掛け算の相手
販売価格差異には 実際販売数量、販売数量差異には 予算販売価格 を掛けます。両方に実際の値を掛けたり、両方に予算の値を掛けたりすると、2つの差異の合計が売上高差異と一致しなくなります。
業績評価で引く固定費の範囲
部門責任者の評価では管理可能な費用までを引きます。一方、部門そのもの(事業として続けるべきか)を評価するときは、管理不能分も含めた個別固定費をすべて引いた利益(部門貢献利益)を使います。「人の評価」か「部門の評価」かで、使う利益が違います。
覚え方・解き方のコツ
- 目標利益は「固定費の上乗せ」と考える。損益分岐点売上高の公式の固定費を「固定費 + 目標利益」に置き換えるだけです。公式を忘れても導出できます。
- 比率・1個当たりの目標は方程式で解く。「限界利益 − 固定費 = 目標利益」に当てはめ、目標利益の側も売上高Sや販売量Qで表して整理します。
- 差異は「実際 − 予算」で符号をそろえる。売上・利益はプラスなら有利、費用はプラスなら不利。表を作るときは、どちらの向きで引いたかを最初に決めておきます。
- 価格差異は「実際の数量」、数量差異は「予算の単価」。「価格は実際、数量は予算」と、掛ける相手が逆になると覚えます。
- 業績評価は「その人が動かせるか」で線を引く。資料に「管理可能」「管理不能」と書いてあれば、責任者評価の問題だと判断します。
よくある質問
予算管理と利益計画はどう違うのですか?
利益計画は「来期にいくら利益を出すか、そのために売上や費用をどの水準にするか」を決める上流の計画です。予算管理は、その計画を部門別の予算に落とし込み(予算編成)、実績と比較して差異を分析・是正する(予算統制)一連の仕組みです。利益計画が予算編成の出発点になる、という関係です。
目標利益達成売上高はどうやって求めますか?
目標利益達成売上高 = (固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率 で求めます。たとえば固定費350万円、限界利益率40%、目標利益130万円なら、480万円 ÷ 0.4 = 1,200万円です。損益分岐点売上高の公式の固定費に目標利益を足しただけの形です。
固定予算と変動予算はどちらが原価管理に向いていますか?
変動予算です。固定予算は操業度にかかわらず期首の予算額のまま比べるため、販売量が減ると変動費が自然に減り、効率が悪化していても有利差異に見えてしまいます。変動予算は実際の操業度に合わせて予算額を調整するので、効率の良し悪しを正しく測れます。
販売価格差異と販売数量差異の計算で、掛ける数量・価格はどちらですか?
販売価格差異は「(実際販売価格 − 予算販売価格)× 実際販売数量」、販売数量差異は「(実際販売数量 − 予算販売数量)× 予算販売価格」です。この組み合わせにすると、2つの差異の合計が売上高の予算実績差異と一致します。
ゼロベース予算とはどんな方法ですか?
前年度の実績にとらわれず、すべての支出項目を白紙の状態から必要性を検討して予算を編成する方法です。前年実績に一定の増減を加える方法と比べて手間はかかりますが、慣例で続いている支出を見直せる利点があります。「前年度実績をベースに増減する」という説明は誤りです。
部門責任者の業績評価では、どの利益を使いますか?
その責任者が管理できる費用だけを差し引いた管理可能利益を使います。売上高から変動費と管理可能個別固定費を引いた金額で、責任者の努力では変えられない管理不能個別固定費は差し引きません。令和8年度 第13問は、この区別ができるかどうかで正解が変わる問題でした。
まとめ
- 予算管理は、予算編成(計画)と予算統制(実績との比較・是正)でPDCAを回す仕組み
- 利益計画では、目標利益達成売上高 = (固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率 を軸にシミュレーションする
- 固定予算は一定額、変動予算は実際の操業度に合わせて調整。原価管理には変動予算が適している
- 売上高差異は販売価格差異(× 実際数量)と販売数量差異(× 予算価格)に分けて原因を特定する
- 部門責任者の評価には、管理可能な費用だけを引いた管理可能利益を使う
計算の途中でつまずいたら、診断士エアポートのトーレス先生(AI講師)にその場で質問できます。
