株主資本等変動計算書とは、一会計期間における純資産の各項目の変動額と、その変動事由を表示する財務諸表です。貸借対照表(B/S)の純資産の部が「期首から期末にかけて、何が原因でいくら動いたか」を項目ごとに明らかにします。会社法で作成が義務付けられた計算書類の1つで、1次試験では剰余金の配当と準備金の積立、自己株式の処理とセットで問われます。
- 各項目を 期首残高 → 当期変動額(変動事由ごと) → 期末残高 の形で示し、期末残高はB/Sの純資産の部と一致する
- 剰余金の配当をするときは、配当額の10分の1を準備金に積み立てる(資本準備金+利益準備金が資本金の4分の1に達するまで)
- 自己株式は取得原価で純資産から控除する。資産ではないので、取得は純資産の減少、処分は純資産の増加になる
株主資本等変動計算書とは
貸借対照表は決算日時点の残高しか示しません。前期末と当期末のB/Sを並べれば純資産が増えたか減ったかはわかりますが、「利益で増えたのか、増資で増えたのか、配当や自社株買いでどれだけ減ったのか」までは読み取れません。
そこで、純資産の動きを変動事由ごとに分解して見せるのが株主資本等変動計算書です。当期純利益はP/Lから利益剰余金の増加として流れ込み、期末残高はB/Sの純資産の部と一致します。B/SとP/Lの間をつなぎ、財務諸表どうしの整合性を確認する役割を持っています。
会社法上の計算書類は、次の4つです。
| 会社法の計算書類 | 内容 |
|---|---|
| 貸借対照表 | 決算日時点の財政状態 |
| 損益計算書 | 一会計期間の経営成績 |
| 株主資本等変動計算書 | 一会計期間の純資産の変動 |
| 個別注記表 | 重要な会計方針などの注記 |
キャッシュ・フロー計算書はこの4つに含まれません(金融商品取引法の財務諸表には含まれます)。B/Sの構造は貸借対照表(B/S)の構造と読み方、P/Lは損益計算書、資金の流れはキャッシュ・フロー計算書で整理しています。
株主資本等変動計算書の仕組み
表示する項目
純資産の部は大きく「株主資本」とそれ以外に分かれます。株主資本等変動計算書は、この区分ごとに列(または行)を立てて変動を示します。
| 区分 | 主な項目 | 中身 |
|---|---|---|
| 株主資本 | 資本金 | 株式発行で払い込まれた元本部分 |
| 株主資本 | 資本剰余金(資本準備金・その他資本剰余金) | 株式発行の払込超過額など |
| 株主資本 | 利益剰余金(利益準備金・繰越利益剰余金など) | 過去の利益の蓄積 |
| 株主資本 | 自己株式 | 自社で取得した自社株式(マイナス項目) |
| 株主資本以外 | 評価・換算差額等(連結では「その他の包括利益累計額」) | その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益など |
| 株主資本以外 | 新株予約権 | 将来株式になりうる権利 |
株主資本以外の項目は、損益計算書を経由しない純資産の変動です。たとえばその他有価証券を時価評価した差額は、P/Lではなく純資産の部に直接計上されます。連結では為替換算調整勘定や退職給付に係る調整累計額もここに入ります。
主な変動事由
| 変動事由 | 動く項目 | 株主資本合計への影響 |
|---|---|---|
| 当期純利益の計上 | 繰越利益剰余金が増加 | 増加 |
| 剰余金の配当 | 繰越利益剰余金(またはその他資本剰余金)が減少 | 減少 |
| 準備金の積立 | 繰越利益剰余金が減り、利益準備金が増える | 変化なし(内部の振替) |
| 新株の発行 | 資本金・資本準備金が増加 | 増加 |
| 自己株式の取得 | 自己株式(マイナス)が増える | 減少 |
| 自己株式の処分 | 自己株式が減り、差額はその他資本剰余金で調整 | 増加 |
ポイントは、準備金の積立は純資産の中での振替にすぎないことです。利益剰余金の内訳が変わるだけで、株主資本合計は動きません。
剰余金の配当と準備金の積立
剰余金の配当は、原則として株主総会の普通決議で決めます。配当をするときは、配当額の10分の1を準備金として積み立てなければなりません。ただし、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達するまでが上限です。
- 積立額 = min(配当額 × 1/10、資本金 × 1/4 − 既存の準備金合計)
- その他利益剰余金を原資とする配当 → 利益準備金を積み立てる
- その他資本剰余金を原資とする配当 → 資本準備金を積み立てる
配当で会社の財産が流出しすぎないようにし、債権者を守るための仕組みです。配当できる上限(分配可能額)は、大まかには「その他利益剰余金+その他資本剰余金−自己株式の帳簿価額」で考えます。
自己株式の扱い
自己株式は、取得原価で純資産の部の株主資本から控除する形で表示します。株主に資本を払い戻したのと同じ性格なので、資産には計上しません。処分(売却)したときの差額や、消却したときの減少額は、その他資本剰余金で調整します。
具体例で確認する
例1:シンプルな構造
まずは講義スライドの例で、表の読み方を確認します。
| 項目 | 期首残高 | 当期変動額 | 期末残高 |
|---|---|---|---|
| 資本金 | 500万円 | — | 500万円 |
| 利益剰余金 | 200万円 | +50万円 | 250万円 |
| 自己株式 | △30万円 | △10万円 | △40万円 |
| 株主資本合計 | 670万円 | +40万円 | 710万円 |
当期純利益の計上で利益剰余金が50万円増え、自己株式を10万円取得しました。株主資本は差し引き 50 − 10 = 40万円の増加で、期首670万円から期末710万円になります。
例2:配当・準備金積立・自社株買いが同時に起きる場合
次の条件で、株主資本等変動計算書を作ってみます(単位:万円)。
- 期首残高:資本金1,000、資本準備金100、その他資本剰余金50、利益準備金80、繰越利益剰余金400、自己株式△60、その他有価証券評価差額金30
- 当期の取引:繰越利益剰余金を原資に200の配当、当期純利益150、自己株式40を取得、その他有価証券評価差額金が10増加
手順1:準備金の積立額を求める。 配当額の10分の1は 200 × 1/10 = 20。上限までの余裕は、資本金1,000 × 1/4 = 250 から既存の準備金合計(100 + 80 = 180)を引いた70です。20 < 70 なので、利益準備金を20積み立てます。
手順2:繰越利益剰余金の期末残高を求める。 400 − 200(配当)− 20(積立)+ 150(当期純利益)= 330。
手順3:表にまとめる。
| 項目 | 期首残高 | 配当 | 準備金積立 | 当期純利益 | 自己株式取得 | その他 | 期末残高 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 資本金 | 1,000 | 1,000 | |||||
| 資本準備金 | 100 | 100 | |||||
| その他資本剰余金 | 50 | 50 | |||||
| 利益準備金 | 80 | +20 | 100 | ||||
| 繰越利益剰余金 | 400 | △200 | △20 | +150 | 330 | ||
| 自己株式 | △60 | △40 | △100 | ||||
| 株主資本合計 | 1,570 | △200 | 0 | +150 | △40 | 1,480 | |
| 評価・換算差額等 | 30 | +10 | 40 | ||||
| 純資産合計 | 1,600 | △200 | 0 | +150 | △40 | +10 | 1,520 |
株主資本合計の変動は △200 + 150 − 40 = △90 で、期首1,570から期末1,480になります。準備金積立の列が合計0になっている点を確認してください。期末の純資産合計1,520は、期末B/Sの純資産の部の合計と一致します。
もし期首の準備金合計が240だったら、上限までの余裕は 250 − 240 = 10 しかありません。この場合、配当額の10分の1(20)ではなく10だけを積み立てます。「10分の1」と「4分の1」のどちらで頭打ちになるかを必ず確認しましょう。
試験での問われ方
株主資本等変動計算書そのものの作成を求める計算問題は多くありません。出題の中心は、純資産を動かす取引のルールを問う正誤問題です。
| 出題パターン | 過去問 | 問われた内容 |
|---|---|---|
| 計算書類の範囲 | 令和5年度 第5問 | 会社法の計算書類に何が含まれるか(C/Fは含まれない) |
| 剰余金の配当 | 令和5年度 第7問 | 中間配当の定款規定、資本剰余金を原資とする配当、準備金積立の対象 |
| 資本金・準備金・剰余金 | 令和6年度 第4問 | 払込額のうち資本金としない部分の扱い、準備金の取崩し、欠損の補塡 |
| 自己株式 | 令和4年度 第10問 | 取得・処分・消却が純資産のどこに影響するか |
令和5年度 第7問では、「役員賞与を支払う場合に10分の1を利益準備金に積み立てる」という誤りの選択肢が出ました。準備金の積立が必要なのは剰余金の配当のときで、役員賞与は費用として処理します。「年2回まで」「資本剰余金を原資にできない」といった、制限を勝手に付け加えた選択肢も誤りでした。
令和6年度 第4問は、会社法・会社計算規則の資本金等の規定を問う問題です。正解は「その他資本剰余金は、繰越利益剰余金のマイナスを補塡するために取り崩せる」でした。払込額の2分の1を超えない額を資本金としない場合、それは資本準備金であって利益準備金ではない、という点もひっかけになっています。
令和4年度 第10問は自己株式の処理です。取得は純資産の減少、処分は純資産の増加で、消却したときに減るのはその他資本剰余金です。自己株式はもともと資産ではないので、消却しても資産は減りません。
なお、令和8年度 第3問では「試算表では借方、B/Sでは純資産の部に表示される科目」として自己株式が問われています。控除項目の位置という切り口でも出題されると覚えておきましょう。
間違えやすいポイント
準備金の「10分の1」と「4分の1」
10分の1は積み立てる額の基準、4分の1は積み立てる上限の基準です。資本金の4分の1に達したかどうかは、資本準備金と利益準備金の合計で判定します。どちらか片方だけで判定する選択肢には注意してください。
積み立てる準備金の種類
| 配当の原資 | 積み立てる準備金 |
|---|---|
| その他利益剰余金(繰越利益剰余金など) | 利益準備金 |
| その他資本剰余金 | 資本準備金 |
「資本剰余金からは配当できない」は誤りです。その他資本剰余金を原資とする配当も認められています。
自己株式は資産ではない
他社の株式と同じように有価証券(資産)として計上する、という選択肢は誤りです。自己株式は純資産からの控除項目で、取得すると分配可能額も小さくなります。「自己株式の取得は配当可能限度額に影響しない」という記述(令和6年度 第4問の選択肢)も誤りです。
準備金の積立は株主資本合計を変えない
利益剰余金の内訳(繰越利益剰余金 → 利益準備金)が入れ替わるだけです。積立で純資産が減ると考えると、例2のような表の合計が合わなくなります。
覚え方・解き方のコツ
- 「期首+変動=期末」の縦の流れで読む。 表の最後の列はB/S、当期純利益の行はP/Lとつながっていると意識すると、構造が頭に入ります。
- 「配当→1/10積立→上限は資本金の1/4(準備金合計)」を1セットで覚える。 計算するときは、配当額の10分の1と上限までの余裕を両方出して小さいほうを取ります。
- 自己株式は「資本の払戻し」と言い換える。 そう考えれば、資産にならない・純資産が減る・処分差額は資本剰余金で調整する、の3つが自然に導けます。
- 選択肢の「最大2回」「できない」に反応する。 剰余金の配当まわりでは、実際にはない制限を付け加えた選択肢がよく誤りになります。
わからない箇所は、診断士エアポートのトーレス先生(AI講師)にその場で質問できます。
よくある質問
株主資本等変動計算書は中小企業でも作成が必要ですか?
必要です。会社法により、株式会社は規模にかかわらず各事業年度の計算書類を作成しなければならず、株主資本等変動計算書はその1つです。一方、キャッシュ・フロー計算書は会社法の計算書類に含まれず、作成が求められるのは金融商品取引法の適用会社です。
配当をするとき、準備金はいくら積み立てればよいですか?
配当額の10分の1を積み立てます。ただし、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達するまでが上限です。たとえば資本金1,000万円で準備金合計がすでに240万円なら、配当200万円でも積立は10万円で足ります。
準備金を積み立てると純資産は減りますか?
減りません。繰越利益剰余金が減って利益準備金が同じ額だけ増える、純資産の中での振替だからです。株主資本等変動計算書では、準備金積立の列の合計が0になります。
自己株式はなぜ資産ではなく純資産のマイナスなのですか?
自社の株式を買い戻すことは、株主に出資を払い戻すのと同じ性格を持つからです。そのため取得原価で株主資本から控除して表示し、取得は純資産の減少、処分は純資産の増加として扱います。消却したときは、その他資本剰余金を減らします。
その他有価証券評価差額金は株主資本に含まれますか?
含まれません。株主資本以外の「評価・換算差額等」(連結では「その他の包括利益累計額」)に表示されます。損益計算書を経由せずに純資産を直接動かす項目で、株主資本等変動計算書では株主資本とは別の区分で変動を示します。
役員賞与にも準備金の積立は必要ですか?
必要ありません。準備金の積立が求められるのは剰余金の配当を行う場合です。役員賞与は費用として処理するもので、令和5年度 第7問ではこの点がひっかけの選択肢になりました。
まとめ
- 株主資本等変動計算書は、純資産の各項目の変動額と変動事由を「期首 → 変動 → 期末」で示す計算書類
- 当期純利益はP/Lから流れ込み、期末残高はB/Sの純資産の部と一致する
- 剰余金の配当では配当額の10分の1を準備金に積み立てる(準備金合計が資本金の4分の1に達するまで)
- 準備金の積立は純資産内の振替で、株主資本合計は変わらない
- 自己株式は取得原価で純資産から控除する。取得は純資産の減少、処分は増加、消却はその他資本剰余金を減らす
