生産性分析とは、人や設備といった投入資源に対して、企業がどれだけの付加価値を生み出したかを評価する経営分析です。損益分岐点分析とは、費用を変動費と固定費に分け、**利益がちょうどゼロになる売上高(損益分岐点売上高)**を求めて、利益構造の安全度を測る分析です。中小企業診断士1次試験の財務・会計では、どちらも「資料から指標を計算させる問題」として毎年のように出題されています。
- 労働生産性 = 付加価値 ÷ 従業員数。付加価値率 × 1人当たり売上高、または労働装備率 × 設備生産性に分解できる
- 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率。目標利益があるときは分子に目標利益を足す
- 損益分岐点比率 + 安全余裕率 = 100%。営業レバレッジ = 限界利益 ÷ 営業利益で、固定費が大きいほど高くなる
生産性分析・損益分岐点分析とは
経営分析には収益性・効率性・安全性などの切り口があります。生産性分析と損益分岐点分析は、そのどれとも少し違う角度から企業を見ます。
生産性分析が見るのは「人1人、設備1単位あたり、どれだけの価値を生んでいるか」です。売上高ではなく付加価値(企業が自ら新たに生み出した価値)を使うのが特徴で、仕入れて右から左に売るだけの売上を除いた「本当の稼ぐ力」を測ります。
損益分岐点分析(CVP分析:Cost・Volume・Profit)が見るのは「売上がどこまで落ちたら赤字になるか」「目標利益にはいくら売ればよいか」です。損益計算書の費用を、売上に比例する変動費と、売上に関係なくかかる固定費に組み替えるのが出発点です。損益計算書の利益区分そのものは損益計算書(P/L)の構造と読み方で整理しています。
| 分析 | 中心の問い | 主な指標 | 使う数値 |
|---|---|---|---|
| 生産性分析 | 投入した人・設備がどれだけ価値を生んだか | 労働生産性、付加価値率、労働分配率、労働装備率、設備生産性 | 付加価値、人件費、従業員数、有形固定資産 |
| 損益分岐点分析 | 利益ゼロの売上はいくらか、どれだけ余裕があるか | 損益分岐点売上高、損益分岐点比率、安全余裕率、営業レバレッジ | 売上高、変動費、固定費 |
生産性分析の公式と体系
付加価値の求め方
付加価値の求め方には、引き算で求める控除法と、足し算で求める加算法があります。
| 方法 | 計算式 |
|---|---|
| 控除法 | 付加価値 = 売上高 - 外部購入価値(材料費・外注費など) |
| 加算法 | 付加価値 = 人件費 + 金融費用 + 賃借料 + 租税公課 + 減価償却費 + 経常利益 |
控除法は「外から買ってきた分を差し引いた残り」、加算法は「生み出した価値を誰に分配したか(従業員・金融機関・地主・国・設備・会社)」を合計する考え方です。1次試験では、付加価値額が資料にそのまま与えられることが多く、計算の中心は次の比率になります。
生産性の主な指標
| 指標 | 計算式 | 意味 |
|---|---|---|
| 労働生産性 | 付加価値 ÷ 従業員数 | 従業員1人あたりの付加価値 |
| 付加価値率 | 付加価値 ÷ 売上高 × 100 | 売上高のうち自社が生み出した価値の割合 |
| 1人当たり売上高 | 売上高 ÷ 従業員数 | 従業員1人あたりの売上規模 |
| 労働装備率 | 有形固定資産 ÷ 従業員数 | 従業員1人あたりの設備の量 |
| 設備生産性(資本生産性) | 付加価値 ÷ 有形固定資産 | 設備1円あたりが生む付加価値 |
| 労働分配率 | 人件費 ÷ 付加価値 × 100 | 付加価値のうち人件費に回した割合 |
労働生産性の2つの分解式
労働生産性は、分母と分子に同じ項目を挟むことで2通りに分解できます。
- 労働生産性 =(付加価値 ÷ 売上高)×(売上高 ÷ 従業員数)= 付加価値率 × 1人当たり売上高
- 労働生産性 =(有形固定資産 ÷ 従業員数)×(付加価値 ÷ 有形固定資産)= 労働装備率 × 設備生産性
1つ目は「売上の質(付加価値率)」と「売上の量(1人当たり売上高)」、2つ目は「設備をどれだけ持たせているか」と「その設備をどれだけ活かしているか」に分ける見方です。ROEを売上高利益率・総資本回転率・財務レバレッジに分けるデュポン分析と同じ発想で、どの要因で差がついたかを特定するために使います。
労働分配率と1人当たり人件費
労働分配率は、高すぎれば利益を圧迫し、低すぎれば従業員の処遇が不十分ということになります。適正水準は業種や規模によって異なり、中小企業は大企業より高い傾向があります。
労働分配率は、次の関係とセットで押さえておくと便利です。
1人当たり人件費 = 人件費 ÷ 従業員数 = 労働生産性 × 労働分配率
労働生産性を上げずに賃金だけを上げれば、労働分配率が上がって利益が削られます。賃上げと利益の両立には生産性の向上が必要、という関係がこの式から読み取れます。
損益分岐点分析の公式と仕組み
基本の考え方
売上高から変動費を引いたものが限界利益(貢献利益)で、限界利益から固定費を引いたものが営業利益です。
- 限界利益 = 売上高 - 変動費
- 変動費率 = 変動費 ÷ 売上高
- 限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高 = 1 - 変動費率
- 営業利益 = 限界利益 - 固定費
損益分岐点は「限界利益でちょうど固定費を回収できる点」です。売上高をSとすると、S × 限界利益率 = 固定費 となるので、次の公式が導かれます。
主な公式
| 指標 | 計算式 | 読み方 |
|---|---|---|
| 損益分岐点売上高 | 固定費 ÷ 限界利益率 | 利益がゼロになる売上高 |
| 損益分岐点販売量 | 固定費 ÷ 1個当たり限界利益 | 利益がゼロになる販売個数 |
| 目標利益達成売上高 | (固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率 | 目標利益を出すのに必要な売上高 |
| 損益分岐点比率 | 損益分岐点売上高 ÷ 実際売上高 × 100 | 低いほど安全 |
| 安全余裕率 | (実際売上高 - 損益分岐点売上高)÷ 実際売上高 × 100 | 高いほど安全。売上が何%減っても赤字にならないか |
| 営業レバレッジ | 限界利益 ÷ 営業利益 | 売上の変化率に対する営業利益の変化率の倍率 |
損益分岐点比率と安全余裕率は表裏一体で、**合計は必ず100%**です。目安として、損益分岐点比率が80%以下なら安全、90%以上なら要注意とされます。ただし業種によって水準は異なるため、試験では目安の暗記より計算と増減の向きが重要です。
条件が変わったときの損益分岐点の動き
| 変化 | 限界利益率 | 損益分岐点売上高 |
|---|---|---|
| 固定費が増える | 変わらない | 上がる |
| 固定費が減る | 変わらない | 下がる |
| 変動費率が上がる | 下がる | 上がる |
| 販売単価が上がる(変動費単価は同じ) | 上がる | 下がる |
具体例で確認する
生産性分析の例
A社の資料は次のとおりです(単位:万円)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上高 | 24,000 |
| 付加価値 | 6,000 |
| うち人件費 | 3,900 |
| 有形固定資産 | 9,600 |
| 従業員数 | 12人 |
手順1:基本の指標を出す
- 労働生産性 = 6,000 ÷ 12 = 500万円
- 付加価値率 = 6,000 ÷ 24,000 = 25%
- 労働分配率 = 3,900 ÷ 6,000 = 65%
手順2:分解式で確かめる
- 1人当たり売上高 = 24,000 ÷ 12 = 2,000万円 → 付加価値率25% × 2,000万円 = 500万円
- 労働装備率 = 9,600 ÷ 12 = 800万円、設備生産性 = 6,000 ÷ 9,600 = 0.625 → 800万円 × 0.625 = 500万円
どちらの分解でも労働生産性500万円に一致します。
手順3:1人当たり人件費
1人当たり人件費 = 3,900 ÷ 12 = 325万円。労働生産性500万円 × 労働分配率65% = 325万円とも一致します。
損益分岐点分析の例
B社の資料は次のとおりです(単位:万円)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上高 | 5,000 |
| 変動費 | 3,000 |
| 固定費 | 1,600 |
手順1:限界利益と営業利益
- 限界利益 = 5,000 - 3,000 = 2,000、限界利益率 = 2,000 ÷ 5,000 = 40%
- 営業利益 = 2,000 - 1,600 = 400
手順2:損益分岐点と安全度
- 損益分岐点売上高 = 1,600 ÷ 0.4 = 4,000万円
- 損益分岐点比率 = 4,000 ÷ 5,000 = 80%
- 安全余裕率 =(5,000 - 4,000)÷ 5,000 = 20%(売上が20%減ると利益ゼロ)
手順3:目標利益と営業レバレッジ
- 目標利益600万円の売上高 =(1,600 + 600)÷ 0.4 = 5,500万円
- 営業レバレッジ = 2,000 ÷ 400 = 5
営業レバレッジ5は、「売上が10%増えれば営業利益は50%増える」という意味です。実際、売上5,500万円のとき営業利益は 5,500 × 0.4 - 1,600 = 600 で、400から50%増えています。逆に売上が10%減って4,500万円になると、営業利益は 4,500 × 0.4 - 1,600 = 200 と半減します。
手順4:条件を変えてみる
- 固定費を200万円削減 → 損益分岐点 = 1,400 ÷ 0.4 = 3,500万円(下がる)
- 変動費率が64%に上昇(限界利益率36%)→ 損益分岐点 = 1,600 ÷ 0.36 ≒ 4,444万円(上がる)
試験での問われ方
採用した過去問から、出題パターンは大きく3つに分かれます。
パターン1:資料から生産性指標を計算・比較する
令和5年度 第12問(設問1)は、当社と競合F社の売上高・付加価値・人件費・従業員数などが並んだ資料から、当社の付加価値率を求める問題です。誤りの選択肢には、F社の付加価値率や、当社・F社の労働分配率の値が並んでおり、分子・分母の取り違えを狙っています。
続く令和5年度 第12問(設問2)は、2社の労働生産性を比べたうえで、その差が労働装備率と設備生産性のどちらによるものかを判定させる問題です。当社は労働生産性が高い一方、設備生産性はF社が上回っており、分解式を使わないと正しい要因を選べません。
パターン2:損益分岐点売上高・目標販売量を計算する
令和6年度 第12問(設問1)は、単価・個数・変動製造原価・変動販売費・固定費の資料から損益分岐点売上高を求める問題です。変動費は製造原価と販売費の両方を足して変動費率を出す必要があります。
令和6年度 第12問(設問2)は、「1個当たり営業利益150円」を達成する販売量を求める問題です。目標利益が総額ではなく1個当たりで与えられているため、公式にそのまま当てはめるのではなく、販売量をQとおいて「1個当たり限界利益 × Q - 固定費 = 150 × Q」と式を立てるのが確実です。
令和4年度 第12問(設問2)も損益分岐点売上高の計算です。固定費が製造間接費と販売費・一般管理費に分かれており、片方を落とすと誤りの選択肢に一致する作りになっています。
パターン3:営業レバレッジの理解を問う正誤問題
令和7年度 第13問は、営業レバレッジに関する記述の正誤問題です。営業レバレッジの高低と利益の変動しやすさの関係、どのような費用構造で高くなるか、業種による傾向(固定費の割合が高い業種ほど高い)などが問われています。
| パターン | 出題形式 | 必要な知識 |
|---|---|---|
| 生産性指標の計算・比較 | 計算+要因の判定 | 各指標の定義、労働生産性の分解式 |
| 損益分岐点・目標販売量 | 計算 | 変動費・固定費の集計、限界利益率、目標利益の扱い |
| 営業レバレッジ | 正誤 | 固定費の割合と利益の変動の関係 |
間違えやすいポイント
付加価値率と労働分配率の混同
付加価値率は「付加価値 ÷ 売上高」、労働分配率は「人件費 ÷ 付加価値」です。付加価値が分子になるか分母になるかで区別しましょう。令和5年度の問題のように、両方の値が選択肢に並ぶのが典型的なひっかけです。
労働生産性の分母と分子
労働生産性は「付加価値 ÷ 従業員数」です。「売上高 ÷ 従業員数」は1人当たり売上高、「人件費 ÷ 従業員数」は1人当たり人件費で、どちらも労働生産性ではありません。
労働装備率と設備生産性の向き
- 労働装備率 = 有形固定資産 ÷ 従業員数(設備が分子)
- 設備生産性 = 付加価値 ÷ 有形固定資産(設備が分母)
設備を増やすと労働装備率は上がりますが、その設備が付加価値を生まなければ設備生産性は下がります。労働生産性の差がどちらの要因かは、両方を計算して比べないと判定できません。
損益分岐点の計算では、変動費・固定費の集計漏れがよくある失点原因です。変動費は製造原価だけでなく変動販売費も、固定費は固定製造原価だけでなく固定販売費・一般管理費も含めます。
営業レバレッジの高低の向き
営業レバレッジは固定費の割合が大きいほど高くなります。固定費を減らして変動費を増やすと、営業レバレッジは下がります。「営業レバレッジが低い=売上が減っても利益が減りにくい」であり、高い・低いの意味を逆に覚えないようにしましょう。
覚え方・解き方のコツ
- 生産性は「付加価値が主役」:労働生産性・設備生産性は付加価値が分子、労働分配率だけは付加価値が分母。
- **分解式は「分母と分子に同じものを挟む」**で自分で作れます。売上高を挟めば付加価値率 × 1人当たり売上高、有形固定資産を挟めば労働装備率 × 設備生産性です。
- **損益分岐点は「限界利益で固定費を回収する点」**と理解すれば、公式を忘れても「S × 限界利益率 = 固定費」から導けます。目標利益があれば固定費に足すだけです。
- 計算の前に変動費・固定費の表を作る:資料の費用を1行ずつ変動か固定かに振り分けてから合計すると、集計漏れを防げます。
- 1個当たりの条件は個数Qで式を立てる:「1個当たり利益」「利益率」で目標が与えられたら、公式ではなく方程式で解くほうが速く正確です。
CVP分析をゼロから例題で確認したい場合は、ブログ記事CVP分析(損益分岐点分析)とはも参考になります。わからない箇所は、診断士エアポートのトーレス先生(AI講師)にその場で質問できます。
よくある質問
労働生産性はなぜ売上高ではなく付加価値で計算するのですか?
売上高には、外部から仕入れた材料や外注の分も含まれているためです。仕入れて売るだけの売上が大きい企業と、自社で加工して価値を高めている企業を公平に比べるには、外部購入価値を除いた付加価値を使う必要があります。
労働生産性の分解式はどちらを使えばよいですか?
問題が何の要因を問うかで選びます。売上の質と量に分けたいときは「付加価値率 × 1人当たり売上高」、設備の量と活用度に分けたいときは「労働装備率 × 設備生産性」を使います。資料に有形固定資産があれば、後者が問われている可能性が高いです。
労働分配率は低いほど良いのですか?
一概には言えません。労働分配率が高すぎると利益が圧迫されますが、低すぎると従業員の処遇が不十分ということになります。適正水準は業種や企業規模で異なり、中小企業は大企業より高い傾向があります。
損益分岐点比率と安全余裕率の関係は?
損益分岐点比率は「損益分岐点売上高 ÷ 実際売上高」、安全余裕率は「(実際売上高 - 損益分岐点売上高)÷ 実際売上高」で、合計は必ず100%になります。損益分岐点比率が80%なら安全余裕率は20%で、売上が20%減ると利益がゼロになることを意味します。
営業レバレッジが高い企業にはどんな特徴がありますか?
固定費の割合が大きい企業です。売上が増えると利益が大きく伸びる一方、売上が減ると利益が大きく落ちる、ハイリスク・ハイリターンの費用構造になります。設備を多く抱える製造業は、仕入原価などの変動費が中心の小売業より高くなる傾向があります。
目標利益が「1個当たり」で与えられたときはどう解きますか?
販売量をQとおいて方程式を立てます。営業利益は「1個当たり限界利益 × Q - 固定費」なので、これを「1個当たり目標利益 × Q」と等しいとおいてQを求めます。総額の目標利益の公式にそのまま当てはめると誤るので注意しましょう。
まとめ
- 労働生産性 = 付加価値 ÷ 従業員数。付加価値率 × 1人当たり売上高、労働装備率 × 設備生産性の2通りに分解して要因を特定する
- 付加価値率(付加価値 ÷ 売上高)と労働分配率(人件費 ÷ 付加価値)の取り違えが定番のひっかけ
- 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率。目標利益は分子に足し、1個当たりの目標は方程式で解く
- 損益分岐点比率 + 安全余裕率 = 100%。固定費が大きいほど営業レバレッジは高く、利益が売上変動に敏感になる
