仕訳とは、企業の取引を「借方(左側)」と「貸方(右側)」に分けて、勘定科目と金額で記録する簿記の基本手続きです。勘定科目は資産・負債・純資産・収益・費用の5つに分類され、仕訳を勘定科目ごとに集計して貸借の一致を確かめる一覧表が試算表です。中小企業診断士1次試験の財務・会計では、「正しい仕訳を選ぶ問題」と「試算表・貸借対照表での科目の位置を問う問題」の形で出題されます。
- 資産の増加・費用の発生は借方(左)、負債・純資産の増加・収益の発生は貸方(右)。減少はそれぞれ反対側に書く
- 1つの取引の借方合計と貸方合計は必ず一致する(貸借平均の原則)。だから試算表でも借方合計=貸方合計になる
- 試算表には合計試算表・残高試算表・合計残高試算表の3種類がある。貸倒引当金や自己株式のように「試算表の貸借」と「貸借対照表の表示場所」がずれる科目に注意
仕訳・勘定科目・試算表とは
簿記は、企業の経済活動を記録・計算・報告するための技術です。日々の取引をそのまま文章でメモしても、期末に「資産はいくらか」「利益はいくらか」を集計することはできません。そこで取引を決まった型に分解して記録するのが仕訳です。
仕訳では、1つの取引を必ず原因と結果の2つの面からとらえます。たとえば「商品を掛けで仕入れた」なら、「仕入(費用)が発生した」面と「買掛金(負債)が増えた」面があります。このように1つの取引を借方・貸方の両面で記録する方法を複式簿記といいます。
3つの用語の関係は次のとおりです。
| 用語 | 役割 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 仕訳 | 取引を借方・貸方に分けて記録する | 取引の「翻訳」 |
| 勘定科目 | 仕訳で使う項目の名称(現金・売掛金・売上など) | 記録の「ラベル」 |
| 試算表 | 仕訳を勘定科目ごとに集計し、貸借の一致を確認する表 | 記録の「検算表」 |
診断士試験では、簿記の検定試験のように大量の仕訳を書かせることはありません。しかし、仕訳の理解がないと財務諸表の読み取りや経営分析、税効果会計・収益認識といった応用論点の選択肢を判定できません。財務・会計のすべての土台になる論点です。
仕訳のルールと勘定科目の分類
勘定科目の5分類
勘定科目は、まず5つのグループに分けて覚えます。資産・負債・純資産は貸借対照表(B/S)、収益・費用は損益計算書(P/L)の項目です。
| 分類 | 意味 | 主な勘定科目 | 表示する財務諸表 |
|---|---|---|---|
| 資産 | 会社が持つ財産・権利 | 現金、普通預金、売掛金、商品、建物 | 貸借対照表 |
| 負債 | 将来支払う義務 | 買掛金、借入金、未払金 | 貸借対照表 |
| 純資産 | 資産から負債を引いた株主の持分 | 資本金、利益剰余金 | 貸借対照表 |
| 収益 | 純資産を増やす原因 | 売上高、受取利息 | 損益計算書 |
| 費用 | 純資産を減らす原因 | 仕入高、給料、支払家賃 | 損益計算書 |
借方・貸方に書くルール
どちらに書くかは、勘定科目のグループと「増えたか減ったか」で決まります。貸借対照表で資産が左側、負債・純資産が右側にあることと対応させると覚えやすくなります。
| 分類 | 借方(左)に書くとき | 貸方(右)に書くとき |
|---|---|---|
| 資産 | 増加 | 減少 |
| 負債 | 減少 | 増加 |
| 純資産 | 減少 | 増加 |
| 収益 | (取消・減少) | 発生 |
| 費用 | 発生 | (取消・減少) |
1つの仕訳の中では、借方の合計金額と貸方の合計金額が必ず一致します。これを貸借平均の原則といい、後で試算表の貸借が一致する根拠になります。
なお、商品売買の記帳方法として診断士試験で前提になることが多いのは三分法です。三分法では、仕入れたときは「商品」ではなく「仕入」(費用)、売ったときは「売上」(収益)の勘定を使い、期末の在庫は決算整理で「繰越商品」に振り替えます。
仕訳から試算表までの流れ
取引の記録は、次の順番で財務諸表につながります。
- 仕訳帳に取引を仕訳する
- 仕訳を総勘定元帳の各勘定口座に転記する
- 総勘定元帳の各勘定を集計して試算表を作る
- 決算整理を行い、貸借対照表・損益計算書を作る
仕訳帳と総勘定元帳は主要簿と呼ばれ、必ず作成します。現金出納帳・売掛金元帳(得意先元帳)・買掛金元帳(仕入先元帳)などの補助簿は、主要簿の明細を管理するために必要に応じて作成します。
試算表の3種類
| 種類 | 記載する金額 | 特徴 |
|---|---|---|
| 合計試算表 | 各勘定の借方合計と貸方合計 | 借方総額=貸方総額=仕訳の総額になる |
| 残高試算表 | 各勘定の残高(借方と貸方の差額) | 資産・費用は借方、負債・純資産・収益は貸方に残高が出る |
| 合計残高試算表 | 合計と残高の両方 | 上の2つを1枚にまとめたもの |
また作成する時点によって、決算整理前残高試算表(期中の記録を集計したもの)と決算整理後残高試算表(減価償却や貸倒引当金などの決算整理を反映したもの)を区別します。過去問の資料に「決算整理前残高試算表の借方には売掛金が〇円」と出てきたら、まだ決算整理をしていない数字だと読み取ります。
具体例で確認する
開業した会社の期中取引を仕訳し、試算表を作ってみます(単位:万円)。期末に売れ残った商品はないものとします。
手順1:取引を仕訳する
| No. | 取引 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|---|
| ① | 現金500を出資して開業した | 現金 500 | 資本金 500 |
| ② | 銀行から現金300を借り入れた | 現金 300 | 借入金 300 |
| ③ | 商品400を掛けで仕入れた | 仕入 400 | 買掛金 400 |
| ④ | 商品600を掛けで売り上げた | 売掛金 600 | 売上 600 |
| ⑤ | 給料50を現金で支払った | 給料 50 | 現金 50 |
| ⑥ | 買掛金250を現金で支払った | 買掛金 250 | 現金 250 |
| ⑦ | 売掛金450を現金で回収した | 現金 450 | 売掛金 450 |
たとえば③は「仕入(費用)の発生=借方」「買掛金(負債)の増加=貸方」、⑥は「買掛金(負債)の減少=借方」「現金(資産)の減少=貸方」です。どの行も借方と貸方の金額が一致しています。
手順2:勘定ごとに集計する(合計試算表)
総勘定元帳に転記した結果を、勘定ごとに借方合計・貸方合計で並べます。
| 勘定科目 | 借方合計 | 貸方合計 |
|---|---|---|
| 現金 | 1,250(①500+②300+⑦450) | 300(⑤50+⑥250) |
| 売掛金 | 600 | 450 |
| 買掛金 | 250 | 400 |
| 借入金 | − | 300 |
| 資本金 | − | 500 |
| 売上 | − | 600 |
| 仕入 | 400 | − |
| 給料 | 50 | − |
| 合計 | 2,550 | 2,550 |
借方合計と貸方合計はともに2,550で一致します。これは①〜⑦の仕訳金額の総額(500+300+400+600+50+250+450=2,550)と同じです。
手順3:残高を出す(残高試算表)
各勘定の借方合計と貸方合計の差額を、大きいほうの側に記入します。
| 借方残高 | 勘定科目 | 貸方残高 |
|---|---|---|
| 950 | 現金 | |
| 150 | 売掛金 | |
| 買掛金 | 150 | |
| 借入金 | 300 | |
| 資本金 | 500 | |
| 売上 | 600 | |
| 400 | 仕入 | |
| 50 | 給料 | |
| 1,550 | 合計 | 1,550 |
残高試算表でも借方と貸方は1,550で一致します。
手順4:財務諸表とのつながりを確かめる
残高試算表を上下に分けると、そのまま財務諸表になります。
- 損益計算書:売上600 −(仕入400+給料50)=当期純利益150
- 貸借対照表:資産(現金950+売掛金150)=1,100、負債(買掛金150+借入金300)=450、純資産(資本金500+当期純利益150)=650
資産1,100=負債450+純資産650となり、貸借対照表も一致します。残高試算表は「期末の資産+費用=負債+期首の純資産+収益」という等式(試算表等式)で成り立っており、ここから費用と収益を差し引きして純利益を純資産に加えると貸借対照表等式になる、という関係です。
試験での問われ方
診断士1次試験では、仕訳や試算表を一から書かせる問題は出ません。次の2つの型で、仕訳の理解を前提にした問題が出題されています。
パターン1:試算表と貸借対照表の位置関係を問う
令和8年度 第3問は、決算整理後残高試算表で借方・貸方のどちらに計上されるかと、勘定式の貸借対照表でどこに表示されるかの組み合わせから、勘定科目を選ぶ問題です。
ポイントは控除項目です。貸倒引当金・減価償却累計額は残高試算表では貸方にありますが、貸借対照表では資産の部(借方)に控除の形で表示されます。自己株式は残高試算表では借方にありますが、貸借対照表では純資産の部(貸方)にマイナスで表示されます。一方、賞与引当金は貸方・負債の部で位置がずれず、社債発行費(繰延資産)は借方に立ちます。
パターン2:応用論点の仕訳を選ぶ
令和5年度 第2問は収益認識基準のもとで、2つの商品を別々に引き渡す取引の仕訳を選ぶ問題です。請求権が確定する前に収益を計上する場合は売掛金ではなく契約資産を使う、という知識が問われました。
令和4年度 第7問は、繰越欠損金に対する税効果会計の仕訳を選ぶ問題です。正解は(借)繰延税金資産120/(貸)法人税等調整額120(欠損金400万円×実効税率30%)で、選択肢には貸借を逆にしたもの、使わない勘定科目を使ったものが並びました。
どちらも、論点そのものの知識に加えて「その勘定科目は資産か負債か、借方か貸方か」を判定できることが前提になっています。
仕訳だけを問う問題は多くありませんが、貸倒引当金、減価償却、税効果会計、収益認識などの問題も、選択肢は仕訳の形で示されることが多くあります。仕訳が読めないと、こうした論点でも失点します。
間違えやすいポイント
貸借が逆の選択肢
最も多いひっかけは、勘定科目と金額は正しいのに借方と貸方が入れ替わっている選択肢です。「資産・費用は増えたら左」と即答できるようにしておけば、短時間で除外できます。
似た名前の勘定科目
| 混同しやすい組み合わせ | 違い |
|---|---|
| 買掛金 と 未払金 | 買掛金は商品の仕入代金の未払い。備品など商品以外の購入代金の未払いは未払金 |
| 未払金 と 未払費用 | 未払金は単発の取引の未払い。未払費用は家賃・利息など継続的な役務提供に対する、時間の経過で発生した未払い |
| 売掛金 と 契約資産 | 売掛金は無条件の請求権。他の履行義務の充足を待つなど、請求権が無条件でない段階の権利は契約資産 |
| 仕入 と 商品 | 三分法では期中の仕入は「仕入」(費用)。期末在庫は「繰越商品」(資産) |
試算表で見つけられない誤り
試算表の貸借が一致しても、記帳が正しいとは限りません。貸借平均の原則でチェックできるのは貸借の金額のずれだけだからです。
- 取引の仕訳そのものが漏れている(借方・貸方とも記録されない)
- 同じ仕訳を二重に記録・転記した
- 勘定科目を取り違えた(例:売掛金とすべきところを受取手形にした)
- 借方と貸方を両方そろって逆にした
こうした誤りは、貸借の合計が同額ずつ動くため試算表では発見できません。
「試算表の貸借」と「貸借対照表の表示」を混同する
前述のとおり、控除項目は試算表と貸借対照表で左右がずれます。「貸倒引当金は資産の部に出るから借方」と考えるのは誤りで、試算表では貸方です。
覚え方・解き方のコツ
- 貸借対照表と損益計算書の形で覚える:B/Sは左に資産、右に負債・純資産。P/Lは左に費用、右に収益。各グループは「自分の定位置の側で増え、反対側で減る」と覚えると5分類すべてに対応できます。
- 現金の動きから考える:迷ったら、まず現金(資産)が増えたか減ったかを決めます。増えたなら現金は借方なので、相手科目は貸方に来ます。
- 選択肢は貸借の向きから消す:仕訳を選ぶ問題では、先に「この科目は借方か貸方か」で明らかに逆の選択肢を消し、残りで金額と科目名を比べると速く解けます。
- 控除項目はリストで押さえる:貸倒引当金・減価償却累計額(資産のマイナス、試算表では貸方)、自己株式(純資産のマイナス、試算表では借方)。「控除項目は符号が逆になる」と覚えます。
財務諸表の全体像はキャッシュフロー計算書(C/F)のページでも整理しています。P/Lの利益とお金の動きのズレは、仕訳でいう「売掛金」「買掛金」の増減から生まれます。
わからない箇所は、診断士エアポートのトーレス先生(AI講師)にその場で質問できます。
よくある質問
借方・貸方とはどういう意味ですか?
借方は仕訳や勘定の左側、貸方は右側を指す呼び方です。もともとの「貸す・借りる」の意味はなく、単に左右の位置を表す記号と考えて構いません。資産の増加と費用の発生は借方、負債・純資産の増加と収益の発生は貸方に書きます。
合計試算表と残高試算表の違いは何ですか?
合計試算表は各勘定の借方合計と貸方合計をそのまま並べた表で、借方総額・貸方総額は仕訳の総額と一致します。残高試算表は各勘定の借方と貸方の差額(残高)だけを記入した表です。両方を1枚にまとめたものを合計残高試算表といいます。
試算表の貸借が一致すれば、記帳に誤りはないと言えますか?
言えません。試算表で発見できるのは、借方と貸方の金額がずれる誤りだけです。仕訳の記帳漏れ、二重記帳、勘定科目の取り違え、貸借の両方を逆にした誤りは、貸借が同額ずつ動くため一致したままになります。
貸倒引当金は試算表の借方と貸方のどちらに記入しますか?
貸方です。貸倒引当金は売掛金などの資産を減らす控除項目なので、資産の反対側である貸方に残高が出ます。ただし貸借対照表では資産の部に、売掛金から差し引く形で表示されます。減価償却累計額も同じ扱いです。
三分法とは何ですか?
商品売買を「仕入」「売上」「繰越商品」の3つの勘定で記録する方法です。期中は仕入れたら仕入(費用)、売ったら売上(収益)を使い、期末に売れ残った在庫を繰越商品(資産)に振り替えて売上原価を計算します。診断士試験の仕訳問題は、特に断りがなければ三分法が前提です。
診断士試験で簿記の資格がないと財務・会計は難しいですか?
簿記の資格は必須ではありません。1次試験で必要なのは、仕訳の読み方と勘定科目の分類、財務諸表とのつながりを理解していることです。大量の仕訳を速く書く力より、選択肢の仕訳が正しいかを判定できる力が問われます。
まとめ
- 仕訳は取引を借方(左)・貸方(右)に分けて記録する手続きで、借方合計=貸方合計が必ず成り立つ
- 勘定科目は資産・負債・純資産・収益・費用の5分類。資産・費用の増加は借方、負債・純資産・収益の増加は貸方
- 仕訳帳→総勘定元帳→試算表→財務諸表の順に集計し、試算表には合計・残高・合計残高の3種類がある
- 貸倒引当金・減価償却累計額・自己株式は、試算表の貸借と貸借対照表の表示位置がずれる
- 試験では、試算表と貸借対照表の位置関係、応用論点の仕訳選択として出題される
