決算整理仕訳とは、決算日に期中の記録を修正・補正し、当期に帰属する収益と費用を正しく確定させるための仕訳です。代表的なものは、減価償却費の計上、引当金の設定、経過勘定(前払費用・未払費用・前受収益・未収収益)の処理、期末棚卸による売上原価の算定です。中小企業診断士1次試験の財務・会計では、減価償却費と貸倒引当金繰入の計算問題がほぼ毎年のように出題されます。
- 減価償却は定額法と**定率法(200%定率法)**の計算手順を押さえる。200%定率法は「償却保証額を下回ったら改定償却率に切り替える」が頻出
- 引当金は4要件(将来の特定の費用・損失/当期以前の事象に起因/発生の可能性が高い/金額を合理的に見積もれる)を満たすときに計上する。「金額が確定している」は要件ではない
- 貸倒引当金は差額補充法で「必要額−残高」を繰り入れる。営業債権分は販売費及び一般管理費、貸付金など営業外債権分は営業外費用
決算整理仕訳とは
期中の仕訳は、お金や商品が動いたタイミングで記録します。しかし「現金を払った時点」と「費用が当期に属するかどうか」は一致しません。たとえば12月に1年分の保険料を払っても、3月決算なら当期の費用は4か月分だけです。
このずれを決算日にまとめて直すのが決算整理です。企業会計では、収益と費用をそれが属する期間に正しく割り当てる期間損益計算が基本になっており、決算整理仕訳はその正確さを担保する手続きです。
流れの中での位置づけは次のとおりです。
| 段階 | 内容 | 作られるもの |
|---|---|---|
| 期中 | 取引のつど仕訳して記帳する | 帳簿・決算整理前残高試算表 |
| 決算整理 | 減価償却・引当金・経過勘定・売上原価などを修正する | 決算整理後残高試算表 |
| 財務諸表の作成 | 整理後の残高を区分・表示する | 貸借対照表・損益計算書 |
仕訳の基本ルールや試算表の種類は「仕訳・勘定科目・試算表」で整理しています。このページでは、その先の「決算で何を直すか」を扱います。
決算整理仕訳の種類と仕組み
代表的な5つの決算整理
| 項目 | 何を直すか | 典型的な仕訳 |
|---|---|---|
| 減価償却 | 固定資産の取得原価を耐用年数にわたって費用配分する | (借)減価償却費/(貸)減価償却累計額 |
| 引当金 | 将来の費用・損失のうち当期負担分を見積計上する | (借)賞与引当金繰入/(貸)賞与引当金 |
| 貸倒引当金 | 売掛金等の回収不能見込額を費用計上する | (借)貸倒引当金繰入/(貸)貸倒引当金 |
| 経過勘定 | 支払・受取のタイミングと期間帰属のずれを調整する | (借)前払費用/(貸)保険料 など |
| 棚卸資産の評価 | 期末在庫を確定し売上原価を算定する | (借)仕入/(貸)繰越商品、(借)繰越商品/(貸)仕入 |
減価償却の方法と記帳方法
減価償却の計算方法は、定額法と定率法が代表的です。
| 方法 | 計算式 | 償却費の推移 |
|---|---|---|
| 定額法 | (取得原価−残存価額)÷耐用年数 | 毎期同額 |
| 定率法 | 期首の未償却残高(帳簿価額)×償却率 | 初期に大きく、だんだん小さくなる |
| 200%定率法 | 償却率=(1÷耐用年数)×2。償却額が償却保証額(取得原価×保証率)を下回った年から「改定取得価額×改定償却率」に切り替える | 初期に大きく、切り替え後は毎期同額 |
200%定率法は現行の税法上の定率法です。残存価額を何%とするかは、試験では問題文の条件に従います。
記帳方法には2つあります。
| 記帳方法 | 仕訳 | 固定資産勘定の残高が表すもの |
|---|---|---|
| 間接法(間接控除法) | (借)減価償却費/(貸)減価償却累計額 | 取得原価のまま |
| 直接法(直接控除法) | (借)減価償却費/(貸)建物・機械など | 帳簿価額(取得原価−償却済額) |
間接法が一般的で、貸借対照表で取得原価と累計額の両方がわかります。なお、表示としては累計額控除後の金額だけを示し、累計額を注記する方法も認められています。
引当金の4要件と種類
引当金は、次の4要件をすべて満たすときに計上します。
- 将来の特定の費用または損失であること
- その発生が当期以前の事象に起因すること
- 発生の可能性が高いこと
- その金額を合理的に見積もることができること
金額がすでに確定している債務は引当金ではなく、未払金や未払費用で処理します。引当金は大きく次の2つに分けられます。
| 種類 | 例 | 貸借対照表の表示 |
|---|---|---|
| 評価性引当金 | 貸倒引当金 | 資産(売掛金など)からの控除項目 |
| 負債性引当金 | 賞与引当金、退職給付引当金、修繕引当金、製品保証引当金 | 負債の部 |
経過勘定の4種類
| 勘定 | 区分 | 内容 | 例 |
|---|---|---|---|
| 前払費用 | 資産 | 当期に支払済みだが、次期以降の費用 | 翌期分の保険料・家賃 |
| 未払費用 | 負債 | 当期の費用だが、まだ支払っていない | 経過期間分の利息・給料 |
| 前受収益 | 負債 | 当期に受取済みだが、次期以降の収益 | 翌期分の受取家賃 |
| 未収収益 | 資産 | 当期の収益だが、まだ受け取っていない | 経過期間分の受取利息 |
経過勘定は一定の契約に従って継続的に役務を提供する・受ける取引に使います。翌期首には逆の仕訳(再振替仕訳)をして、元の費用・収益の勘定に戻します。
具体例で確認する
3月決算(4月1日〜3月31日)の会社を例に、代表的な決算整理を順に計算します。
例1:定額法の減価償却(期中取得)
10月1日に備品を1,000,000円で取得した。耐用年数5年、残存価額ゼロ、定額法、間接法で記帳する。
- 1年分の償却費:1,000,000÷5=200,000円
- 当期の使用期間は10月〜3月の6か月なので月割する:200,000×6/12=100,000円
- 仕訳:(借)減価償却費 100,000/(貸)減価償却累計額 100,000
例2:200%定率法の切り替え
期首に機械を1,000,000円で取得した。耐用年数5年、200%定率法。償却率0.400、保証率0.10800、改定償却率0.500とする。
償却保証額は1,000,000×0.10800=108,000円です。
| 年度 | 期首帳簿価額 | 通常の償却額(×0.400) | 判定 | 当期の償却費 | 期末帳簿価額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 1,000,000 | 400,000 | 保証額以上 | 400,000 | 600,000 |
| 2年目 | 600,000 | 240,000 | 保証額以上 | 240,000 | 360,000 |
| 3年目 | 360,000 | 144,000 | 保証額以上 | 144,000 | 216,000 |
| 4年目 | 216,000 | 86,400 | 保証額未満→切り替え | 216,000×0.500=108,000 | 108,000 |
| 5年目 | 108,000 | — | 切り替え後 | 108,000 | 0 |
4年目に通常の計算では86,400円となり、保証額108,000円を下回ります。そこで4年目期首の帳簿価額216,000円を改定取得価額とし、改定償却率0.500を掛けた108,000円を以後毎期の償却費にします。同じ資産を定額法で償却すれば毎期200,000円なので、定率法は初年度の費用が2倍になることもわかります。
例3:貸倒引当金(差額補充法)
期末の売掛金残高は3,000,000円、貸倒実績率は2%。決算整理前の貸倒引当金残高は15,000円。
- 必要な引当金額:3,000,000×2%=60,000円
- 繰入額:60,000−15,000=45,000円
- 仕訳:(借)貸倒引当金繰入 45,000/(貸)貸倒引当金 45,000
もし整理前の残高が70,000円なら、60,000−70,000=−10,000円で引当金が多すぎます。この場合は(借)貸倒引当金 10,000/(貸)貸倒引当金戻入 10,000 として、超過分を取り崩します。
例4:経過勘定
前払費用:12月1日に1年分の保険料120,000円を支払い、全額を保険料(費用)で処理していた。
- 当期分は12月〜3月の4か月:120,000×4/12=40,000円
- 翌期分は4月〜11月の8か月:120,000×8/12=80,000円
- 仕訳:(借)前払費用 80,000/(貸)保険料 80,000
未払費用:1月1日に2,000,000円を年利3%で借り入れた。利息は後払いで、決算日までに支払っていない。
- 経過期間は1月〜3月の3か月:2,000,000×3%×3/12=15,000円
- 仕訳:(借)支払利息 15,000/(貸)未払費用 15,000
例5:賞与引当金
6月に支給する賞与の計算期間が12月1日〜5月31日で、支給見込額は3,000,000円。
- 当期に属するのは12月〜3月の4か月:3,000,000×4/6=2,000,000円
- 仕訳:(借)賞与引当金繰入 2,000,000/(貸)賞与引当金 2,000,000
例6:売上原価の算定(三分法)
期首商品200,000円、当期仕入1,500,000円、期末商品300,000円。
- 仕訳:(借)仕入 200,000/(貸)繰越商品 200,000、(借)繰越商品 300,000/(貸)仕入 300,000
- 売上原価=期首商品+当期仕入−期末商品=200,000+1,500,000−300,000=1,400,000円
利益への影響をまとめる
例1・例3・例4の4つの整理だけで、当期の利益は次のように変わります。
| 整理 | 利益への影響 |
|---|---|
| 減価償却費の計上(例1) | −100,000円 |
| 貸倒引当金繰入(例3) | −45,000円 |
| 前払保険料の振替(例4) | +80,000円 |
| 未払利息の計上(例4) | −15,000円 |
| 合計 | −80,000円 |
減価償却費を月割せずに1年分の200,000円で計上すると、合計は−180,000円になります。月割を忘れるだけで利益が100,000円ずれることがわかります。
試験での問われ方
採用した過去問を見ると、出題は大きく3つの型に分かれます。
1.減価償却費の計算
令和5年度 第3問は、取得原価300,000円・耐用年数5年の機械を200%定率法で償却したときの4年目の償却費を問う問題です。3年目までは帳簿価額×0.4で計算し、4年目は通常の償却額25,920円が償却保証額32,400円を下回るため、改定取得価額64,800円×0.500=32,400円が正解でした。切り替えをせずに25,920円と答える誤答が選択肢に用意されています。
令和4年度 第11問は、直接控除法から間接控除法へ記帳方法を変える場面で、機械勘定の残高216,000円から取得原価を逆算させる問題です。4年分償却済みなので帳簿価額は取得原価の0.6倍となり、216,000÷0.6=360,000円が求まります。
2.貸倒引当金繰入の計算
令和7年度 第1問は、売掛金・営業上の未収入金・短期貸付金に対する貸倒引当金のうち、販売費及び一般管理費に入る金額を問う問題です。売掛金分(200,000−前期残高50,000=150,000円)と営業上の未収入金分(800,000円)の合計950,000円が正解で、短期貸付金分は営業外費用に回ります。
令和6年度 第1問は、収益認識の基準(検収基準)を絡めて期末の売掛金を確定させ、差額補充法で繰入額を求める問題です。売掛金130,000円×2%=2,600円から残高1,000円を引いた1,600円が答えでした。
3.経過勘定・引当金・固定資産の正誤問題
令和6年度 第2問は経過勘定の定義を問い、「継続して役務の提供を受け、まだ対価を払っていないもの=未払費用」が正解でした。令和8年度 第7問は負債の正誤問題で、賞与引当金は支給見込額の全額ではなく当期負担分(6か月中4か月)だけを計上する、という点がひっかけになっています。
令和8年度 第5問は有形固定資産の正誤問題で、減価償却累計額を控除した金額だけを表示する方法も認められること、資産の種類ごとに異なる償却方法を使えること、製造設備の減価償却費は製造原価に入ることが問われました。
間違えやすいポイント
選択肢でよく見る誤りの型です。正誤問題ではここを先に確認してください。
| 誤りの型 | 正しい考え方 |
|---|---|
| 引当金は「金額が確定していること」が要件 | 要件は「金額を合理的に見積もれること」。確定していれば未払金等で処理する |
| 貸倒引当金繰入は必要額をそのまま計上する | 差額補充法では「必要額−整理前残高」を繰り入れる |
| 貸倒引当金繰入はすべて販売費及び一般管理費 | 貸付金など営業外の債権に対する分は営業外費用 |
| 減価償却費は常に販売費及び一般管理費 | 製造設備の減価償却費は製造原価(製造間接費)に入る |
| 償却方法は全資産で統一しなければならない | 建物は定額法、機械は定率法のように種類ごとに選べる |
| 200%定率法は最後まで帳簿価額×償却率 | 償却保証額を下回った年から改定取得価額×改定償却率に切り替える |
| 未払費用と未払金は同じ | 未払費用は継続的な役務の対価、未払金は固定資産の購入など単発の取引の未払い |
| 賞与引当金は支給見込額の全額 | 計算期間のうち当期に属する月数分だけ |
もう1つ注意したいのが、試算表と貸借対照表で位置がずれる科目です。貸倒引当金と減価償却累計額は、決算整理後残高試算表では貸方に計上されますが、貸借対照表では資産の部に控除項目として表示されます。この点は「仕訳・勘定科目・試算表」でも取り上げています。
覚え方・解き方のコツ
- 月割は「当期に属する月数」を最初に数える:取得日・支払日・計算期間の開始日から決算日までの月数を、問題文の余白に書き出してから計算する。
- 200%定率法は表を作る:「期首帳簿価額/通常の償却額/保証額との比較」の3列を書けば、切り替えの年を見落とさない。償却率は1÷耐用年数×2で自分でも確かめられる。
- 差額補充法は「必要額→残高→差額」の3行:必要額を先に出し、整理前の残高を引く。マイナスになったら戻入。
- 経過勘定は「前払・未収は資産、未払・前受は負債」:「前払」「未収」はお金や権利を先に持っている側なので資産、「未払」「前受」は義務を負っている側なので負債、と考える。
- 売上原価は「しーくり・くりしー」:(借)仕入/(貸)繰越商品で期首在庫を仕入に足し、(借)繰越商品/(貸)仕入で期末在庫を引く。
- キャッシュフローとのつながりを意識する:減価償却費や引当金繰入は現金支出を伴わない費用です。間接法の営業キャッシュフローで足し戻す理由は「キャッシュフロー計算書」、投資案の税引後キャッシュフローでの扱いは「NPV(正味現在価値)」で確認できます。
よくある質問
決算整理仕訳はなぜ必要なのですか?
期中の記録は現金の出入りや取引のタイミングで行うため、そのままでは当期の収益・費用が正しく集計されません。減価償却や経過勘定の処理で期間のずれを直し、引当金で将来の費用の当期負担分を織り込むことで、適正な期間損益が計算できます。決算整理後の残高から貸借対照表と損益計算書が作られます。
定額法と定率法では、どちらが初年度の減価償却費が大きくなりますか?
一般に定率法のほうが初年度の償却費は大きくなります。たとえば取得原価1,000,000円・耐用年数5年なら、定額法は毎期200,000円、200%定率法は初年度400,000円です。定率法は帳簿価額に一定率を掛けるため、年数がたつにつれて償却費が小さくなります。
200%定率法の「保証率」と「改定償却率」はどう使いますか?
まず取得原価×保証率で償却保証額を求めます。毎年の通常の償却額(期首帳簿価額×償却率)がこの保証額を下回った年から、その年の期首帳簿価額を改定取得価額とし、改定取得価額×改定償却率を毎期の償却費にします。切り替え後は毎期同額になり、耐用年数の終わりに償却が完了します。
引当金と未払金はどう違いますか?
引当金は、将来発生する費用・損失のうち当期に原因があるものを見積もって計上するもので、金額は確定していません。未払金は、すでに金額が確定している支払義務です。引当金の4要件のうち「金額を合理的に見積もれること」が、確定債務ではないことを表しています。
貸倒引当金の残高が必要額より多いときはどう処理しますか?
差額補充法では、超過分を取り崩して貸倒引当金戻入(収益)として処理します。たとえば必要額60,000円に対して残高が70,000円なら、(借)貸倒引当金10,000/(貸)貸倒引当金戻入10,000です。不足するときは差額を貸倒引当金繰入として計上します。
未払費用と未払金、前受収益と前受金はどう見分けますか?
未払費用・前受収益は、家賃や利息のように一定の契約に従って継続的に役務を提供する・受ける取引で、時間の経過に応じて生じるものに使います。未払金は固定資産の購入代金など単発の取引の未払い、前受金は商品販売の代金の前受けなどに使います。「継続的な役務かどうか」で判断します。
まとめ
- 決算整理仕訳は、期中の記録を直して適正な期間損益を計算するための手続き
- 減価償却は定額法と200%定率法の計算が頻出。期中取得の月割と、定率法の改定償却率への切り替えを確実に
- 引当金は4要件を満たすときに計上し、貸倒引当金は差額補充法で「必要額−残高」を繰り入れる。営業外債権分は営業外費用
- 経過勘定は前払費用・未収収益が資産、未払費用・前受収益が負債。継続的な役務の取引に使う
- 試験では計算問題(減価償却・貸倒引当金)と正誤問題(経過勘定・引当金・固定資産の表示)の両方で出る
計算の手順で迷ったところは、診断士エアポートのトーレス先生(AI講師)にその場で質問できます。
