WACC(Weighted Average Cost of Capital、加重平均資本コスト)は、企業が負債と株主資本で集めた資金に、平均して何%のコストがかかっているかを示す数値です。負債コスト(税引後)と株主資本コストを、それぞれの調達額の割合で加重平均して求めます。投資案を評価するときの割引率や、最低限クリアすべき収益率(ハードルレート)として使われます。
- 公式は WACC = rD ×(1 − T)× D/(D+E) + rE × E/(D+E)。D・Eは時価で考える
- 負債コストに(1 − T)を掛けるのは、支払利息が損金になる節税効果(タックスシールド)を反映するため。株主資本コストには掛けない
- 1次試験では「WACCを計算する」「WACCから株主資本コストを逆算する」「全社WACCと事業部別の資本コストの使い分け」の3パターンが中心
WACCとは
会社が事業に使うお金の集め方は、大きく2つに分かれます。銀行借入や社債で集める負債と、株式を発行して株主から集める**株主資本(自己資本)**です。
どちらの資金にもコストがかかります。負債には利息を払い、株主は配当や株価の値上がりを期待して出資しています。WACCは、この2種類のコストを「どれだけの割合で集めたか」に応じて平均したもので、言い換えれば会社全体のお金集めの平均利回りです。
この数値が重要なのは、資金を出した人たちへの「最低限の約束」を表しているからです。投資案の利回りがWACCを下回れば、債権者と株主が求めるリターンをまかなえず、企業価値を損ないます。そのためWACCは、NPV法の割引率やIRR法の比較基準として使われます。投資評価そのものの手順は NPV(正味現在価値) と IRR(内部収益率) のページで解説しています。
WACCの計算式と構成要素
WACCの計算式は次のとおりです。
WACC = rD ×(1 − T)× D/(D+E) + rE × E/(D+E)
| 記号 | 名称 | 意味・求め方 |
|---|---|---|
| rD | 負債コスト(税引前) | 借入金・社債の利率。支払利息 ÷ 有利子負債 で求める |
| T | 法人税率(実効税率) | 支払利息の節税効果を計算するために使う |
| rD ×(1 − T) | 税引後負債コスト | 節税分を差し引いた、実質的な負債の負担率 |
| rE | 株主資本コスト | 株主が要求する期待収益率。CAPMや配当割引モデルで求める |
| D | 負債の時価 | 有利子負債の価値 |
| E | 株主資本の時価 | 株式時価総額(株価 × 発行済株式数) |
| D/(D+E)、E/(D+E) | 構成比(ウエイト) | 資金全体に占める負債・株主資本の割合。足すと1になる |
式の形は「税引後の負債コスト × 負債の割合 + 株主資本コスト × 株主資本の割合」です。記号で覚えるより、この言葉の形で覚えておくと、問題文の表現が変わっても対応できます。
負債コストを税引後にする理由(タックスシールド)
支払利息は、税金を計算するときに損金(費用)として差し引けます。つまり利息を払うと、その分だけ課税所得が減り、法人税が安くなります。この節税効果をタックスシールドといいます。
たとえば負債400万円を利率4%で借りている場合、税率30%なら次のようになります。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 支払利息 | 400万円 × 4% | 16万円 |
| 節税額(タックスシールド) | 16万円 × 30% | 4.8万円 |
| 実質的な負担 | 16万円 − 4.8万円 | 11.2万円 |
| 実質的な負債コスト | 11.2万円 ÷ 400万円 | 2.8%(= 4% ×(1 − 0.3)) |
表面上の利率は4%でも、実質的な負担は2.8%で済みます。一方、配当は損金にならないため、株主資本コストには(1 − T)を掛けません。
株主資本コストの求め方
株主資本コストは、問題文に直接与えられることもありますが、次の2つの方法で求めさせる出題もあります。
| 方法 | 計算式 | 使う場面 |
|---|---|---|
| CAPM | rE = rf + β ×(rm − rf) | リスクフリーレート、β値、市場の期待収益率が与えられたとき |
| 配当割引モデル(ゼロ成長) | rE = 1株当たり配当 ÷ 株価 | 毎期一定額の配当と株価(または株式時価総額と株式数)が与えられたとき |
| 配当割引モデル(定率成長) | rE = 次期配当 ÷ 株価 + 成長率 | 配当が一定率で成長するとき |
CAPMの公式やβ値の意味は CAPM(資本資産評価モデル) のページで詳しく扱っています。
株主資本コストが負債コストより高い理由
一般に、株主資本コストは負債コストより高くなります。理由は次の3つです。
| 観点 | 負債(債権者) | 株主資本(株主) |
|---|---|---|
| 倒産時の弁済順位 | 先に回収できる | 最後。ゼロになることもある |
| リターンの安定性 | 利息は契約で決まっている | 配当・株価は業績次第で変動する |
| 節税効果 | 利息は損金になる | 配当は損金にならない |
株主の方が大きなリスクを負うため、より高いリターンを求めます。この大小関係は正誤問題でそのまま問われることがあります。
資本構成とWACCの関係
負債コストは株主資本コストより安いので、負債の割合を増やすと、ある程度まではWACCが下がります。しかし負債が増えすぎると倒産リスク(財務的困窮コスト)が高まり、債権者は利率の引き上げを、株主はより高いリターンを求めるようになります。その結果、WACCはかえって上昇します。
| 負債の割合 | WACCへの影響 | 状態 |
|---|---|---|
| 少なすぎる | 節税効果を活かせず、WACCが高めになる | 割安な資金を使い切れていない |
| 適度 | WACCが最も低くなる | 最適資本構成(企業価値が最大) |
| 多すぎる | 倒産リスクで負債・株主資本のコストが上がり、WACCが上昇 | 財務リスクが過大 |
このように、節税効果と倒産リスクのバランスで最適な資本構成が決まるという考え方をトレードオフ理論といいます。なお、MM理論(モディリアーニ・ミラーの命題)では、完全市場で税がなければ資本構成は企業価値に影響しないとされ、法人税を考慮すると負債の節税効果の分だけ負債利用が有利になる(修正MM理論)とされます。
具体例で確認する
例題1:基本のWACC計算
次のデータの企業のWACCを求めます。
| 項目 | 数値 | 説明 |
|---|---|---|
| 負債(D) | 400万円 | 有利子負債の時価 |
| 株主資本(E) | 600万円 | 株主資本の時価 |
| 負債利子率(rD) | 4% | 税引前 |
| 法人税率(T) | 30% | 実効税率 |
| 株主資本コスト(rE) | 10% | CAPMで算出 |
手順1:構成比を出す 資本合計は 400 + 600 = 1,000万円です。負債の割合は 400/1,000 = 0.4、株主資本の割合は 600/1,000 = 0.6 です。
手順2:税引後負債コストを出す 4% ×(1 − 0.3)= 2.8%
手順3:加重平均する
- 負債部分:2.8% × 0.4 = 1.12%
- 株主資本部分:10% × 0.6 = 6.0%
- WACC = 1.12% + 6.0% = 7.12%
この企業の投資案は、少なくとも約7.1%の利回りを上げなければ、資金提供者の要求を満たせないことになります。
税引前の4%のまま計算すると、4% × 0.4 + 10% × 0.6 = 7.6% になります。選択肢にはこの「税引前のまま」の値が紛れていることが多いので、(1 − T)を掛けたかを必ず確認しましょう。
例題2:CAPMで株主資本コストを求めてからWACCを出す
リスクフリーレート2%、市場の期待収益率8%、β値1.2、負債利子率4%、税率30%、負債と株主資本の時価が1:1の企業を考えます。
- 株主資本コスト(CAPM):2% + 1.2 ×(8% − 2%)= 2% + 7.2% = 9.2%
- 税引後負債コスト:4% ×(1 − 0.3)= 2.8%
- WACC:2.8% × 0.5 + 9.2% × 0.5 = 1.4% + 4.6% = 6.0%
株主資本コストを自分で出す必要があるため、1段階多い計算になります。どの式で株主資本コストを求めるかは、問題文に与えられたデータの種類で判断します。
例題3:WACCから株主資本コストを逆算する
負債コスト3%、税率30%、時価基準の負債比率(負債 ÷ 自己資本)0.25、WACC 6.82% の企業の株主資本コストを求めます。
- 構成比に直す:D/E = 0.25 は、D:E = 1:4 という意味です。したがって D/(D+E) = 1/5 = 0.2、E/(D+E) = 4/5 = 0.8
- 負債部分:3% ×(1 − 0.3)× 0.2 = 0.42%
- 式を立てる:0.42% + rE × 0.8 = 6.82%
- 解く:rE × 0.8 = 6.40% より、rE = 8.0%
リスクフリーレートが2%なら、株主資本コストに含まれるリスクプレミアムは 8.0% − 2% = 6.0% です。「負債比率(D/E)」を「負債の構成比(D/(D+E))」とそのまま取り違えると、答えが合わなくなります。
試験での問われ方
1次試験の財務・会計では、WACCは令和5〜7年度に毎年出題されています。採用した過去問を整理すると次のとおりです。
| 過去問 | 形式 | 問われた内容 |
|---|---|---|
| 令和7年度 第16問 | 計算 | 配当割引モデルで株主資本コストを求め、WACCを計算する |
| 令和6年度 第14問 | 計算(逆算) | WACCから自己資本コストを逆算し、リスクプレミアムを求める |
| 令和5年度 第17問 | 判定 | 全社WACCと事業部別の資本コストの使い分け |
パターン1:WACCを計算する
令和7年度 第16問は、負債・株主資本の時価がともに5,000万円、発行済株式数100万株、1株当たり配当5円(毎期一定)、税引前負債コスト4%、税率30%という条件でWACCを求める問題でした。
株主資本コストが直接与えられていないのがポイントです。株価を 5,000万円 ÷ 100万株 = 50円 と求め、ゼロ成長の配当割引モデルで 5 ÷ 50 = 10% とします。あとは 2.8% × 0.5 + 10% × 0.5 = 6.4% です。税引前の4%のまま計算した 7% も選択肢に入っていました。
パターン2:WACCから逆算する
令和6年度 第14問は、負債コスト2%、負債比率(負債 ÷ 自己資本)0.25、WACC 6.28%、リスクフリーレート1%、税率30%から、自己資本コストに含まれるリスクプレミアムを答える問題でした。
D/E = 0.25 を構成比 0.2:0.8 に直し、0.28% + rE × 0.8 = 6.28% から rE = 7.5%。最後にリスクフリーレート1%を引いて 6.5% が正解です。自己資本コストの 7.5% そのものも選択肢にあり、最後の1ステップを忘れると誤答する作りになっていました。
パターン3:どの資本コストで判定するか
令和5年度 第17問は、リスクの異なるH事業部とL事業部を持つ企業で、投資案を全社WACC(8%)で判定するか、事業部ごとの資本コスト(H事業部11%、L事業部5%)で判定するかを問う問題でした。
正しくは、投資案のリスクに合った事業部の資本コストを使います。H案はIRR 10% < 11% で棄却、L案はIRR 7% > 5% で採択です。全社WACCで一律に判定した結論(H案採択・L案棄却)がひっかけの選択肢でした。WACCは「会社全体の平均的なリスク」に対するコストであり、リスクが平均と異なる投資案にはそのまま使えない、という点を押さえておきましょう。
間違えやすいポイント
| 間違い | 正しい考え方 |
|---|---|
| 負債コストを税引前のまま使う | 支払利息は損金になるため、rD ×(1 − T)で税引後にする |
| 株主資本コストにも(1 − T)を掛ける | 配当は損金にならない。(1 − T)は負債だけ |
| 負債比率 D/E をそのまま構成比に使う | D/E = 0.25 なら D/(D+E) = 0.2。構成比に直してから計算する |
| 簿価で構成比を出す | 原則は時価。問題文に「時価」とあればその数値を使う |
| 逆算で株主資本コストを答えて終わる | 「リスクプレミアム」を問われたら rf を引くところまでやる |
| 負債を増やすほどWACCは下がり続ける | 過度な負債は倒産リスクを高め、WACCは反転上昇する |
| どの投資案も全社WACCで判定する | リスクが異なる投資案には、そのリスクに見合った資本コストを使う |
「負債比率」という言葉は、問題によって D/E(負債 ÷ 自己資本)の意味でも D/(D+E)(負債 ÷ 総資本)の意味でも使われます。かっこ書きの定義を必ず読みましょう。
覚え方・解き方のコツ
- 言葉で覚える:「税引後の借金コスト × 借金の割合 + 株主のコスト × 株主の割合」。(1 − T)は借金の側にだけ付く、と式の形で覚えます。
- 計算の順番を固定する:①構成比 → ②税引後負債コスト → ③株主資本コスト(必要ならCAPMや配当割引モデル) → ④加重平均。毎回同じ順で解くとミスが減ります。
- 検算の目安を持つ:WACCは必ず「税引後負債コスト」と「株主資本コスト」の間に入ります。例題1なら 2.8% と 10% の間です。範囲外の答えが出たら計算ミスを疑いましょう。
- 選択肢の作り方を知る:税引前のまま計算した値、構成比を取り違えた値、逆算の途中の値(rf を引く前)がよく並びます。自分の答えが選択肢にあっても、これらに当てはまらないか一度確認すると安心です。
- 2次試験も見据える:事例Ⅳでは、WACCを割引率としてNPVやDCF法で企業価値を求める流れで使います。DCF法による企業価値評価 とつなげて理解しておくと、1次と2次の両方に役立ちます。
WACCとNPVを並べて基礎から確認したい場合は、ブログ記事 WACC・NPVとは も参考にしてください。計算の途中でつまずいた箇所は、診断士エアポートのトーレス先生(AI講師)にその場で質問できます。
よくある質問
WACCの計算で、負債コストに(1 − 税率)を掛けるのはなぜですか?
支払利息は税務上の損金に算入されるため、利息を払った分だけ法人税が減るからです。この節税効果(タックスシールド)を差し引いた実質的な負担が、税引後負債コスト rD ×(1 − T)です。配当は損金にならないので、株主資本コストには掛けません。
WACCの構成比は簿価と時価のどちらで計算しますか?
原則として時価で計算します。WACCは資金提供者が「いま」要求するリターンを表すため、負債は時価、株主資本は株式時価総額を使うのが基本です。試験では問題文に「時価」と明示されることが多いので、与えられた数値をそのまま使います。
株主資本コストはどうやって求めますか?
代表的なのはCAPMで、rE = rf + β ×(rm − rf)で求めます。毎期一定の配当と株価が与えられている場合は、配当割引モデル(rE = 配当 ÷ 株価)で求めることもあります。令和7年度第16問は、配当割引モデルで株主資本コストを出してからWACCを計算する問題でした。
負債を増やせばWACCは必ず下がりますか?
必ず下がるわけではありません。負債コストは株主資本コストより安いため、ある程度までは負債を増やすとWACCは下がります。しかし負債が過大になると倒産リスクが高まり、負債・株主資本のコストがともに上がって、WACCは上昇に転じます。WACCが最小になる資本構成を最適資本構成といいます。
WACCとIRRはどう使い分けますか?
WACCは資金調達のコスト、IRRは投資案そのものの利回りです。IRR法では、投資案のIRRがWACC(資本コスト)を上回れば採択、下回れば棄却と判断します。NPV法では、WACCを割引率として将来キャッシュフローを現在価値に直します。
全社のWACCを使ってはいけないのはどんなときですか?
投資案のリスクが会社全体の平均的なリスクと異なるときです。高リスクの事業の投資案を全社WACCで評価すると採択されやすくなり、低リスクの事業の投資案は棄却されやすくなります。令和5年度第17問のように、事業部ごとのリスクに見合った資本コストで判定するのが適切です。
まとめ
- WACCは、税引後負債コストと株主資本コストを、時価ベースの構成比で加重平均した資本コスト
- 公式は WACC = rD ×(1 − T)× D/(D+E) + rE × E/(D+E)。(1 − T)は節税効果を反映するため負債側だけに掛ける
- 株主資本コストはCAPMや配当割引モデルで求め、一般に負債コストより高い
- 試験では「計算」「逆算(リスクプレミアムまで)」「どの資本コストで判定するか」が問われる
- WACCはNPV・IRR・DCF法の割引率や判定基準として、投資判断と企業価値評価の土台になる
