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DCF法とは?FCF・継続価値・株主価値の計算を過去問で解説

DCF法による企業価値評価の手順、フリーキャッシュフロー(FCF)の計算式、永久成長モデルによる継続価値、企業価値から株主価値を求める流れを、中小企業診断士1次試験の過去問に沿って解説。数値例で計算手順も確認できます。

公開 2026-10-04 ・ 約17分で読めます

目次▾

DCF法(Discounted Cash Flow法、割引キャッシュフロー法)は、企業が将来生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)を、WACC(加重平均資本コスト)で現在価値に割り引いて企業価値を求める手法です。M&Aの買収価格の算定や、事業の経済的な価値の評価に広く使われます。中小企業診断士試験では、1次試験の財務・会計で計算問題と知識問題の両方が出題され、2次試験の事例Ⅳでも使う重要論点です。

  • FCF = 営業利益 ×(1 − 税率)+ 減価償却費 − 設備投資 − 運転資本増加額。減価償却費は「足す」、設備投資と運転資本の増加は「引く」
  • 継続価値(ターミナルバリュー)は永久成長モデル TV = FCFn+1 ÷(WACC − g)で求め、予測期間の最終年から現在まで割り引く
  • 株主価値 = 企業価値 − 有利子負債。有利子負債は「加算」ではなく「差し引く」

DCF法とは

会社の値段をつける方法は大きく3つに分かれます。将来の収益力から求めるインカムアプローチ、類似企業の株価や取引事例から求めるマーケットアプローチ、貸借対照表の純資産から求めるコストアプローチです。DCF法はこのうちインカムアプローチの代表的な手法です。

DCF法の考え方は、投資案のNPV(正味現在価値)と同じです。「将来入ってくるお金を、今の価値に直して合計する」という発想を、1つの投資案ではなく会社(事業)全体に当てはめたものと考えるとわかりやすいでしょう。

会社の価値を「将来生み出すお金」で測る理由は、買い手や投資家が手に入れたいのが、帳簿上の資産そのものではなく、その会社がこれから稼ぎ出すキャッシュだからです。貸借対照表には表れない技術力やブランド、顧客基盤も、将来のキャッシュフローを通じて価値に反映されます。

DCF法で使う2つの材料

材料 中身 役割
FCF(フリーキャッシュフロー) 事業活動から生まれ、債権者と株主に自由に分配できるキャッシュ 割り引く対象(分子)
WACC(加重平均資本コスト) 負債コスト(税引後)と株主資本コストを、資本構成で加重平均したもの 割引率(分母)

FCFは「債権者と株主の両方に帰属するお金」なので、割引率にも債権者と株主の両方の要求収益率を合わせたWACCを使います。株主資本コストはCAPMで求めるのが一般的で、その考え方はCAPM(資本資産評価モデル)の論点ページで整理しています。

DCF法の計算手順と公式

企業価値を求める5ステップ

ステップ やること ポイント
① 将来のFCFを予測する 予測期間は通常5〜10年
② 予測期間のFCFをWACCで現在価値に割り引く 各年のFCF ÷(1 + WACC)^t
③ 予測期間以降の継続価値(ターミナルバリュー)を求める 永久成長モデルなど
④ 予測期間のFCFの現在価値と、継続価値の現在価値を合計する これが事業価値
⑤ 有利子負債を差し引いて株主価値を求める 株主価値 ÷ 発行済株式数 = 理論株価

式にまとめると次のとおりです。

事業価値 = Σ{FCFt ÷ (1 + WACC)^t} + TV ÷ (1 + WACC)^n

(t = 1〜n、n は予測期間の最終年、TV は n 年度末時点の継続価値)

FCFの計算式

FCFは「事業で稼いだお金から、事業を続けるための投資を差し引いた残り」です。

FCF = 営業利益 ×(1 − 税率)+ 減価償却費 − 設備投資 − 運転資本増加額

営業利益 ×(1 − 税率)は**NOPAT(税引後営業利益)**と呼ばれます。当期純利益ではなく営業利益から出発するのは、支払利息を差し引く前、つまり債権者と株主に分配する前のキャッシュを捉えるためです。

項目 加減 理由
減価償却費 +(足し戻す) 費用だが現金は出ていかない
設備投資 −(差し引く) 実際に現金が出ていく
運転資本の増加(売上債権・棚卸資産の増加など) −(差し引く) 現金が売掛金や在庫に寝てしまう
運転資本の減少(仕入債務の増加など) +(足す) 支払いが先送りされ、現金が手元に残る

継続価値(ターミナルバリュー)の公式

予測期間より先のFCFを1年ずつ予測するのは現実的ではありません。そこで、予測期間以降は一定の成長率 g で永久に成長すると仮定し、まとめて価値を求めます。

TV = FCFn+1 ÷(WACC − g)

FCFn+1 は予測期間最終年の翌年のFCF、g は永久成長率です。成長がない(g = 0)と置けば、TV = FCF ÷ WACC という単純な永久年金の式になります。

注意したいのは、この式で求めたTVがn 年度末時点の価値だという点です。現在価値にするには、さらに(1 + WACC)^n で割り引く必要があります。

事業価値・企業価値・株主価値の関係

用語 求め方 意味
事業価値 DCF法で算出 本業が生み出すFCFの現在価値
企業価値 事業価値 + 非事業用資産(遊休不動産・余剰現金など) 債権者と株主の両方に帰属する価値
株主価値 企業価値 − 有利子負債 株主に帰属する価値
理論株価 株主価値 ÷ 発行済株式数 1株あたりの価値

会社全体のパイ(企業価値)を、債権者の取り分(有利子負債)と株主の取り分(株主価値)に分けるイメージです。

具体例で確認する

例題1:FCFを計算する

営業利益500万円、税率30%、減価償却費100万円、設備投資200万円、運転資本の増加額50万円の会社のFCFを求めます。

  1. NOPAT = 500万円 ×(1 − 0.3)= 350万円
  2. FCF = 350万円 + 100万円 − 200万円 − 50万円 = 200万円

減価償却費を足し戻し、設備投資と運転資本の増加を引く、という加減の向きを確実に押さえましょう。

例題2:DCF法で企業価値と株主価値を求める

次の条件で、株主価値と理論株価を求めます。

項目 数値
1年目のFCF 100万円
2年目のFCF 110万円
3年目のFCF 120万円
4年目以降のFCF 毎年120万円(成長率 g = 0%)
WACC 8%
非事業用資産(余剰現金) 100万円
有利子負債 600万円
発行済株式数 1万株

手順1:予測期間のFCFを現在価値に割り引く

年 FCF 割引計算 現在価値
1年目 100万円 100 ÷ 1.08 約92.6万円
2年目 110万円 110 ÷ 1.08² 約94.3万円
3年目 120万円 120 ÷ 1.08³ 約95.3万円

手順2:継続価値を求めて割り引く

  • 3年度末時点の継続価値 TV = 120万円 ÷(0.08 − 0)= 1,500万円
  • 現在価値 = 1,500 ÷ 1.08³ ≒ 1,190.7万円

手順3:事業価値を合計する

事業価値 ≒ 92.6 + 94.3 + 95.3 + 1,190.7 = 約1,472.9万円

手順4:企業価値・株主価値・理論株価へ

  • 企業価値 = 1,472.9 + 100(余剰現金)= 約1,572.9万円
  • 株主価値 = 1,572.9 − 600(有利子負債)= 約972.9万円
  • 理論株価 = 972.9万円 ÷ 1万株 ≒ 約973円

この例では、継続価値の現在価値(約1,190.7万円)が事業価値の約8割を占めています。予測期間はわずか3年でも、その後の「ずっと続く部分」の価値が大部分になるわけです。

例題3:前提が変わると結果はどれだけ動くか

例題2の事業価値を、WACCと成長率だけ変えて再計算すると次のようになります。

前提 事業価値
WACC 8%、g = 0%(例題2) 約1,472.9万円
WACC 8%、g = 2% 約1,901.6万円
WACC 7%、g = 0% 約1,686.9万円
WACC 9%、g = 0% 約1,306.6万円

g = 2% の場合、4年目のFCFは 120 × 1.02 = 122.4万円、TV = 122.4 ÷(0.08 − 0.02)= 2,040万円です。成長率を2%置くだけで事業価値は約3割増え、WACCが1%動くだけでも1割以上変わります。これがDCF法の「割引率・成長率の設定で結果が大きく変わる(感度が高い)」という短所です。

試験での問われ方

採用した過去問を見ると、DCF法は大きく3つのパターンで出題されています。

パターン1:継続価値・株主価値の計算

令和6年度 第22問は、第11〜13期のFCFが毎期200百万円、第14期以降は4%で成長するという条件で、第14期以降のFCFの第11期期首における現在価値を求める問題でした。第13期末時点の継続価値を 208 ÷(8% − 4%)= 5,200百万円と求め、さらに3年の複利現価係数0.794を掛けて約4,129百万円とします。継続価値を「いつの時点の価値か」まで意識できているかが問われました。

令和5年度 第20問は、税引後純利益・減価償却費・設備投資額・正味運転資本増加額からFCFを求め、毎年3%で成長する前提で株主価値を計算する問題です。負債がない会社なので、FCF(900万円)を株主の要求収益率と成長率の差(6% − 3%)で割って30,000万円になります。成長率を無視した値(15,000万円)や、設備投資・運転資本増加を加算した値が誤答の選択肢として並んでいました。

パターン2:FCFの計算ルール

令和7年度 第21問は、当期純利益からFCFを計算するときの加減の向きを問う正誤問題でした。正解は「仕入債務の増加額は加算される」です。売上債権の増加、減価償却費、設備投資の扱いを逆にした選択肢が並ぶ、典型的なひっかけの形です。

パターン3:評価手法の分類と特徴

令和6年度 第23問は、乗数法(マルチプル法)がマーケットアプローチ、DCF法がインカムアプローチに分類されることを空欄補充で問いました。あわせて、企業価値EBITDA倍率の企業価値が「有利子負債 + 株式時価総額 − 現金・預金」で計算されることも題材になっています。

令和8年度 第21問は、M&Aにおける企業評価方法の特徴を問う問題です。収益還元方式(将来の利益やキャッシュフローを割り引く方法)は将来の収益力を反映しやすい、という記述が正解でした。純資産方式や乗数法の特徴を入れ替えた選択肢を見抜く力が求められます。

計算問題では、複利現価係数・年金現価係数が問題文に与えられるのが普通です。電卓で(1 + r)^n を計算するより、与えられた係数を使うほうが速く、選択肢の数値とも一致しやすくなります。

間違えやすいポイント

株主価値は「企業価値 − 有利子負債」

よく出るひっかけです。企業価値は債権者と株主の両方の取り分の合計なので、株主の取り分を出すには有利子負債を差し引きます。「有利子負債を加算して株主価値を求める」という記述は誤りです。逆向きに言えば「企業価値 = 株主価値 + 有利子負債」は正しい記述になります。

継続価値の割引を忘れる・割引年数を間違える

TV = FCFn+1 ÷(WACC − g)で出てくるのはn 年度末時点の価値です。これを現在価値に直さずに合計してしまうミスや、n + 1 年分割り引いてしまうミスがよくあります。令和6年度 第22問でいえば、第13期末の価値なので3年分(第11期期首まで)割り引きます。

分子は「翌年」のFCF

永久成長モデルの分子は、予測期間最終年のFCFではなくその翌年のFCFです。成長率 g がある場合は、最終年のFCF ×(1 + g)を分子に置きます。g = 0 のときだけ、最終年と翌年のFCFが同じになります。

FCFと当期純利益の混同

FCFは当期純利益と同じではありません。減価償却費の足し戻しや、設備投資・運転資本増加の控除が入ります。ただし、令和5年度 第20問のように「負債がない」会社では支払利息がないため、税引後純利益から出発しても結果は同じになります。

割引率は株主資本コストではなくWACC

企業価値を求めるDCF法では、債権者と株主の両方に帰属するFCFを割り引くので、割引率はWACCです。「株主資本コストのみを用いる」という記述は誤りになります(負債がない会社では、WACCと株主資本コストが一致します)。

評価アプローチの分類の取り違え

アプローチ 代表的な手法 特徴
インカムアプローチ DCF法、収益還元方式 将来の収益力を反映しやすい。予測や前提で結果が大きく変わる
マーケットアプローチ 乗数法(マルチプル法)、類似会社比較法、市場株価法 市場の評価を反映し簡便。企業固有の事情は反映しにくい
コストアプローチ 純資産方式 客観性が高い。将来の収益力や無形の価値は反映しにくい

覚え方・解き方のコツ

  • FCFは「税引後営業利益+償却−投資−運転資本」の4つの塊で覚える。 「お金が出ていかない費用は足す、お金が出ていく・寝てしまうものは引く」と理由で覚えれば、当期純利益から出発する問題にも対応できます。
  • 時間軸の図を描く。 0年度(現在)から n 年度末まで線を引き、各年のFCFと「n 年度末に継続価値の塊が乗る」様子を書き込むと、割引年数の間違いが防げます。
  • 継続価値の式は「定率成長の配当割引モデルと同じ形」と結びつける。 配当の代わりにFCF、株主資本コストの代わりにWACCを入れた形です。
  • 最後に「差し引く」を確認する。 計算の最終段で有利子負債を引いたか、非事業用資産を足したかを見直すだけで、ひっかけ選択肢を避けられます。
  • **分類問題は「インカム=将来の稼ぎ、マーケット=相場、コスト=帳簿」**の対応で整理します。

関連する投資評価の考え方(NPVとWACCのつながり)は、ブログ記事「WACC・NPVとは」でも解説しています。わからない箇所は、診断士エアポートのトーレス先生(AI講師)にその場で質問できます。

よくある質問

DCF法とNPV法は何が違うのですか?

どちらも将来のキャッシュフローを割り引いて現在価値を求める点は同じです。NPV法は個々の投資案について「現在価値の合計 − 初期投資額」がプラスかどうかで採否を判断する手法で、DCF法による企業価値評価は事業全体のFCFを割り引いて会社の価値そのものを求める手法です。計算の考え方は共通なので、NPVの計算に慣れておくとDCF法の問題も解きやすくなります。

FCFの計算で、なぜ当期純利益ではなく営業利益から出発するのですか?

当期純利益は支払利息を差し引いた後の数字で、債権者への分配がすでに済んだ状態を表しているからです。DCF法で割り引くFCFは債権者と株主の両方に分配する前のキャッシュなので、利息を引く前の営業利益に(1 − 税率)を掛けたNOPATから出発します。負債がない会社では支払利息がないため、税引後純利益から出発しても同じ結果になります。

継続価値の式 TV = FCF ÷(WACC − g)で、WACCが g 以下だとどうなりますか?

分母がゼロやマイナスになり、意味のある価値が計算できません。永久成長モデルは「WACC > g」を前提にした式です。実務でも試験でも、永久成長率は割引率より低い値が設定されます。

継続価値が企業価値の大部分を占めるのは本当ですか?

一般に、継続価値は企業価値のかなりの部分を占めることが多いとされます。本ページの例題2でも、継続価値の現在価値が事業価値の約8割でした。そのため、永久成長率や割引率の設定次第で評価額が大きく変わる点が、DCF法の短所として挙げられます。

企業価値に余剰現金を足すのはなぜですか?

DCF法で求めた事業価値は、本業が生み出すFCFだけを反映した価値です。遊休不動産や余剰現金のような事業に使っていない資産は、FCFには含まれていませんが、会社の価値の一部であることに変わりはありません。そこで事業価値に非事業用資産を加えたものを企業価値とし、そこから有利子負債を差し引いて株主価値を求めます。

DCF法の長所と短所を簡単にまとめると?

長所は、将来の成長性や企業固有の収益力を価値に反映でき、理論的に優れた手法とされる点です。短所は、将来のFCFの予測が難しく、割引率や成長率の設定によって結果が大きく変わる点です。試験では、乗数法や純資産方式との比較で、この長所・短所が正誤問題の形で問われます。

まとめ

  • DCF法は、将来のFCFをWACCで現在価値に割り引いて企業価値を求めるインカムアプローチの手法
  • FCF = 営業利益 ×(1 − 税率)+ 減価償却費 − 設備投資 − 運転資本増加額
  • 継続価値は TV = FCFn+1 ÷(WACC − g)で求め、予測期間の最終年から現在まで割り引く
  • 事業価値 + 非事業用資産 = 企業価値、企業価値 − 有利子負債 = 株主価値
  • 試験では継続価値・株主価値の計算、FCFの加減ルール、評価アプローチの分類が繰り返し問われる

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