ポートフォリオ理論は、マーコウィッツが提唱した投資理論で、複数の資産を組み合わせることで、リターン(期待収益率)を保ったままリスク(標準偏差)を下げられることを示したものです。ポイントは「リターンは加重平均になるが、リスクは加重平均より小さくなりうる」という非対称性にあります。中小企業診断士1次試験の財務・会計では、2資産の標準偏差の計算と、効率的フロンティア・資本市場線の図を使った正誤問題がほぼ毎年出ています。
- ポートフォリオの期待リターンは、各資産の期待リターンを投資比率で加重平均した値(相関係数に関係なく成り立つ)
- 2資産のリスクは σp² = w₁²σ₁² + w₂²σ₂² + 2w₁w₂σ₁σ₂ρ₁₂。相関係数ρが小さいほどリスク低減効果が大きい
- 安全資産があれば、危険資産の最適な組み合わせ(接点ポートフォリオ)は投資家のリスク回避度と無関係に決まる(トービンの分離定理)
ポートフォリオ理論とは
ポートフォリオとは、投資家が保有する資産の組み合わせのことです。ポートフォリオ理論では、投資の良し悪しをリターン(期待収益率)とリスク(収益率の標準偏差)の2つの軸で評価します。
リスクとは「損をする可能性」ではなく、リターンのばらつきの大きさです。期待収益率が同じなら、ばらつきの小さい資産のほうが望ましいと考えるのが、リスク回避的な投資家の前提になります。
「卵を1つのカゴに盛るな」という格言のとおり、値動きの異なる資産を組み合わせると、一方の下落を他方の上昇が打ち消し、全体のばらつきが小さくなります。この分散投資効果を数式で説明したのがポートフォリオ理論です。株主資本コストを求めるCAPM(資本資産評価モデル)も、この理論を土台にしています。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 期待リターン | 投資から得られる平均的な収益率。各資産の加重平均で算出する |
| リスク(標準偏差) | リターンのばらつきの大きさ。投資の不確実性を示す |
| 分散投資効果 | 相関の低い資産を組み合わせることでリスクを低減する効果 |
| 効率的フロンティア | 同じリスクで最大リターン(同じリターンで最小リスク)となる組み合わせの集まり |
ポートフォリオのリスクとリターンの公式
期待リターンは「加重平均」
ポートフォリオの期待リターン E(rp) は、次の式で求めます。
- E(rp) = Σ(wi × ri) (wi:資産iへの投資比率、ri:資産iの期待リターン)
2資産なら E(rp) = w₁r₁ + w₂r₂ です。分散投資をしてもリターンは平均化されるだけで、加重平均を上回ることはありません。
リスクは「加重平均以下」になる
2資産ポートフォリオのリスクは、分散(標準偏差の2乗)で表します。
- σp² = w₁²σ₁² + w₂²σ₂² + 2w₁w₂σ₁σ₂ρ₁₂
ここで σ₁σ₂ρ₁₂ は2資産の共分散(Cov₁₂)です。問題文で共分散が与えられたら、σp² = w₁²σ₁² + w₂²σ₂² + 2w₁w₂Cov₁₂ とそのまま代入します。標準偏差 σp は、最後に分散の平方根をとって求めます。
相関係数と分散投資効果
相関係数ρは −1 から +1 の値をとり、2資産の値動きの連動度合いを示します。
| 相関係数 | 関係 | 分散投資効果 | ポートフォリオのリスク |
|---|---|---|---|
| ρ = +1 | 完全正相関 | なし | 各資産の標準偏差の加重平均と等しい |
| 0 < ρ < +1 | 正の相関 | あり | 加重平均より小さい |
| ρ = 0 | 無相関 | あり | 共分散の項が消え、加重平均より小さい |
| ρ < 0 | 負の相関 | 大きい | さらに小さくなる |
| ρ = −1 | 完全負相関 | 最大 | 投資比率次第でリスクをゼロにできる |
現実の資産の相関係数は、ほとんどが −1 < ρ < +1 の範囲にあります。つまり、相関係数が1未満であれば、組み合わせるだけでリスクは加重平均より小さくなるということです。
消せるリスクと消せないリスク
| 種類 | 別名 | 分散投資で消せるか |
|---|---|---|
| 非システマティックリスク | 個別リスク・固有リスク | 消せる |
| システマティックリスク | 市場リスク | 消せない |
十分に分散されたポートフォリオに残るのは市場リスクだけです。この区別は、CAPMでβ値が「市場リスクだけ」を測る理由につながります。
具体例で確認する
例1:相関係数によってリスクがどう変わるか
次の2資産に50%ずつ投資する場合を考えます。
| 項目 | 資産A | 資産B |
|---|---|---|
| 期待リターン | 8% | 6% |
| 標準偏差 | 20% | 15% |
手順1:期待リターン E(rp) = 0.5 × 8% + 0.5 × 6% = 7%。これは相関係数に関係なく一定です。
手順2:相関係数 ρ = 0.2 のときの分散
- w₁²σ₁² = 0.25 × 400 = 100
- w₂²σ₂² = 0.25 × 225 = 56.25
- 2w₁w₂σ₁σ₂ρ = 2 × 0.5 × 0.5 × 20 × 15 × 0.2 = 30
- σp² = 100 + 56.25 + 30 = 186.25
手順3:標準偏差 σp = √186.25 ≒ 13.6%
標準偏差の加重平均は 0.5 × 20% + 0.5 × 15% = 17.5% ですが、実際のリスクは約13.6%まで下がりました。リターンは7%のまま、リスクだけが減っています。
同じ条件で相関係数だけを変えると、次のようになります。
| 相関係数ρ | 分散 σp² | 標準偏差 σp | 期待リターン |
|---|---|---|---|
| +1 | 306.25 | 17.5% | 7% |
| 0.2 | 186.25 | 約13.6% | 7% |
| 0 | 156.25 | 12.5% | 7% |
| −0.5 | 81.25 | 約9.0% | 7% |
| −1 | 6.25 | 2.5% | 7% |
ρ = +1 のときだけ、リスクが加重平均(17.5%)と一致します。ρが小さくなるほどリスクが下がることが数字で確認できます。
ρ = −1 のときは、投資比率を変えればリスクを完全にゼロにできます。この例では資産Aに 15 ÷(20 + 15)≒ 42.9%、資産Bに約57.1%投資すると σp = 0 になり、そのときの期待リターンは約6.86%です。
例2:安全資産と危険資産の組み合わせ
リスクがゼロの安全資産(リターン2%)と、期待リターン8%・標準偏差20%の危険資産に、危険資産60%・安全資産40%の比率で投資するとします。
- 期待リターン = 0.6 × 8% + 0.4 × 2% = 5.6%
- 標準偏差 = 0.6 × 20% = 12%
安全資産は標準偏差も共分散もゼロなので、ポートフォリオのリスクは危険資産への投資比率に比例します。リスクとリターンの関係が直線になるため、図では安全資産の点から伸びる直線として描かれます。この直線が危険資産の効率的フロンティアに接するとき、それが**資本市場線(CML)**です。
試験での問われ方
採用した過去問を見ると、出題は大きく3つのパターンに分かれます。
| パターン | 内容 | 該当する過去問 |
|---|---|---|
| ① 計算問題 | 2資産ポートフォリオの標準偏差を求める | 令和4年度 第15問 |
| ② 基本性質の正誤 | リターンは加重平均、リスクは相関係数で変わる | 令和5年度 第18問、令和8年度 第19問 |
| ③ 図の読み取り | 効率的フロンティア・資本市場線・分離定理 | 令和4年度 第16問、令和6年度 第19問、令和7年度 第20問 |
① 計算問題
令和4年度 第15問は、標準偏差10%と20%の2証券に等額投資し、相関係数ゼロのときのポートフォリオの標準偏差を求める問題です。共分散の項が消えるので、分散は 0.5² × 10² + 0.5² × 20² = 125、標準偏差は √125 ≒ 11.2% になります。選択肢には、投資比率を2乗し忘れた √250 ≒ 15.8% が用意されていました。
② 基本性質の正誤
令和5年度 第18問は、「ポートフォリオのリターンは各資産のリターンの加重平均」が正解でした。誤りの選択肢は、「リスクも加重平均」「相関係数が大きいほどリスク低減効果が大きい」「安全資産と組み合わせたときのリスクは投資比率に反比例」と、いずれも本ページの公式で判断できる内容です。
令和8年度 第19問は一歩進んで、安全資産がある場合の危険資産の最適ポートフォリオはリスク回避度と無関係に決まる(分離定理)という記述が正解でした。最小分散ポートフォリオはリスク回避度に依存しないこと、効率的フロンティアの形は期待収益率・分散・共分散で決まることも問われています。
③ 図の読み取り
令和7年度 第20問(設問1)と(設問2)、令和4年度 第16問は、縦軸に期待収益率、横軸にリスクをとった図で、安全資産の有無による効率的フロンティアの違いを問う問題です。令和6年度 第19問は、同じタイプの図で「リスクプレミアム=最適ポートフォリオの期待収益率 − リスクフリーレート」を読み取らせました。
| 条件 | 効率的フロンティア | 最適ポートフォリオの決まり方 |
|---|---|---|
| 安全資産なし | 最小分散点より上の曲線部分 | リスク回避度に応じて曲線上の点を選ぶ |
| 安全資産あり(貸し借り自由) | 安全資産の点から接点を通る直線(資本市場線) | 危険資産は接点で固定。リスク回避度は安全資産との配分で調整 |
| 安全資産あり(借り入れ不可) | 安全資産〜接点の直線+接点より右の曲線 | 接点より右は危険資産だけの曲線上で選ぶ |
間違えやすいポイント
「リスクも加重平均」は誤り
代表的なひっかけです。リターンは常に加重平均ですが、リスク(標準偏差)が加重平均と等しくなるのは ρ = +1 のときだけです。「相関係数は1未満とする」という前提がついていれば、リスクは加重平均より小さくなります。
計算での投資比率の2乗忘れ
σp² の式では、投資比率を2乗します(w₁²σ₁²)。0.5 × 100 のように2乗を忘れると、令和4年度 第15問の誤答選択肢(15.8%)にそのまま当たります。また、最後に平方根をとり忘れて「分散」を答えてしまうミスにも注意しましょう。
相関係数の大小と効果の向き
「相関係数が大きいほどリスク低減効果が大きい」は誤りです。効果が大きいのは相関係数が小さい(−1に近い)ときです。ρ = 0 は「効果なし」ではなく「効果あり」なので、ここも混同しないようにしましょう。
分離定理で決まるもの・決まらないもの
| 項目 | リスク回避度との関係 |
|---|---|
| 接点ポートフォリオ(危険資産の最適な組み合わせ) | 無関係(安全資産がある場合) |
| 最小分散ポートフォリオ | 無関係(分散・共分散だけで決まる) |
| 安全資産と接点ポートフォリオの配分比率 | リスク回避度で決まる |
リスク回避度が高い投資家ほど、資本市場線上で安全資産寄りの点を選びます。危険資産の中身が「安全な銘柄寄り」に変わるわけではありません。
資本市場線と証券市場線の取り違え
安全資産と接点ポートフォリオを結ぶ直線は**資本市場線(CML)で、横軸は標準偏差です。横軸にβ値をとる証券市場線(SML)**とは別物で、令和7年度 第20問(設問2)では「証券市場線という」が誤りの選択肢でした。
覚え方・解き方のコツ
- 「リターンは足し算、リスクは掛け算の2乗」:リターンは w × r を足すだけ。リスクは w² × σ² + w² × σ² + 2ww σσρ の3項を足してから平方根。
- 計算は分散で進めて最後にルート:%のまま 20² = 400 のように計算すると桁を間違えにくくなります。問題文に √ の近似値が並んでいたら、その中から分散の値を探すと検算になります。
- ρ = +1 と ρ = 0 の2つを即答できるように:ρ = +1 なら標準偏差の加重平均、ρ = 0 なら共分散の項を消すだけ。この2つで多くの選択肢を絞り込めます。
- 図問題は「縦軸の切片=安全資産」「接点=危険資産の最適ポートフォリオ」から読む:まず安全資産の有無と借り入れの可否を確認し、効率的フロンティアが曲線か直線かを判断します。
- リスクプレミアムは「縦の差」:投資家が持つポートフォリオの期待収益率から、リスクフリーレート(縦軸の切片)を引いた値です。
よくある質問
ポートフォリオのリスクはなぜ加重平均より小さくなるの?
2つの資産の値動きが完全には連動しない(相関係数が1未満)ため、一方が下がったときに他方が下がらない、または上がることで、全体のばらつきが打ち消されるからです。式の上では、共分散の項 2w₁w₂σ₁σ₂ρ が、ρ = +1 のときより小さくなることで表れます。
相関係数が0なら分散投資の効果はない?
効果はあります。相関係数が0のときは共分散の項がゼロになり、σp² = w₁²σ₁² + w₂²σ₂² になります。この値は ρ = +1 のときより小さいので、リスクは加重平均を下回ります。効果がないのは ρ = +1 のときだけです。
分散投資をすればリスクはゼロにできる?
資産の数を増やして消せるのは、個別企業に固有の非システマティックリスクだけです。景気や金利など市場全体に共通するシステマティックリスクは、どれだけ分散しても残ります。理論上、ρ = −1 の2資産なら比率次第でリスクをゼロにできますが、現実の資産でそうなることはまずありません。
共分散が与えられたときはどう計算する?
共分散は σ₁σ₂ρ₁₂ と同じものなので、σp² = w₁²σ₁² + w₂²σ₂² + 2w₁w₂Cov₁₂ に直接代入します。相関係数が必要な場合は、ρ = Cov₁₂ ÷(σ₁ × σ₂)で求められます。たとえば σ₁ = 20%、σ₂ = 15%、ρ = 0.2 なら、共分散は 20 × 15 × 0.2 = 60 です。
トービンの分離定理とは何?
安全資産が存在する場合、投資家の意思決定は「危険資産をどう組み合わせるか」と「危険資産と安全資産にどう配分するか」の2段階に分けられる、という考え方です。前者は全員に共通の接点ポートフォリオになり、リスク回避度は後者の配分比率にだけ反映されます。令和8年度 第19問ではこの内容が正解の選択肢でした。
効率的フロンティアと最小分散フロンティアの違いは?
最小分散フロンティアは、各期待リターンについてリスクが最小になる組み合わせを結んだ曲線全体です。そのうち、最小分散点より上の部分(同じリスクでリターンがより高い側)だけが効率的フロンティアです。最小分散点より下の部分は、同じリスクでもっと高いリターンを得られる組み合わせがあるため、合理的な投資家は選びません。
まとめ
- ポートフォリオの期待リターンは各資産の加重平均で、分散投資しても上回ることはない
- 2資産のリスクは σp² = w₁²σ₁² + w₂²σ₂² + 2w₁w₂σ₁σ₂ρ₁₂。投資比率の2乗と、最後の平方根を忘れない
- 相関係数が1未満ならリスクは加重平均より小さくなり、−1に近いほど効果が大きい
- 分散投資で消せるのは非システマティックリスクだけ。システマティックリスクは残る
- 安全資産があれば効率的フロンティアは資本市場線になり、危険資産の最適な組み合わせはリスク回避度と無関係に決まる(分離定理)
わからない箇所は、診断士エアポートのトーレス先生(AI講師)にその場で質問できます。続けてCAPM(資本資産評価モデル)で、システマティックリスクがどのように価格づけされるかを確認しておくと、証券投資の分野がひとつながりになります。
